環境条約シリーズ 285法的拘束力を有することになった北極海航路規制

2015年12月15日グローバルネット2015年12月号

前・上智大学教授
磯崎 博司

地球温暖化に伴い、北極海の夏期の氷結域は縮小傾向にある。そのため、海底鉱物資源の開発計画が進められるとともに、大西洋と太平洋をつなぐ北極海航路が実現した。

ヨーロッパと日本との間を考えると、北極海航路は、スエズ運河・マラッカ海峡経由の場合と比べて距離的に40%弱の短縮となり、燃料の節約や大気汚染の減少に大きく寄与する。さらに、安全面でも、海賊の多発するソマリア沖やマラッカ海峡を回避できる。

他方で、航行する船舶が増えれば、海難事故とそれに伴う海洋汚染のリスクが高まる。とくに、北極海は、海氷の危険だけではなく、陸地に囲まれており、外部海域との間の循環が少ないため、汚染物質が滞留して深刻な被害が起きやすい。

北極海の航行には、国連海洋法条約、海上人命安全(SOLAS)条約(本誌2008年8月)、船舶起因汚染防止(MARPOL)条約(本誌1994年2月、2006年9月)、船員訓練資格証明・当直基準(STCW)条約なども適用されるが、北極海のための特別規則は定められていなかった。そのため、北極海については、北極海氷結域航行船舶ガイドライン(2002年)や北極海航行船舶ガイドライン(2009年)が採択された。しかし、南極海での船舶事故が増加したこともあって、ガイドラインではなく、法的拘束力を有する規則が求められた。

それに応えて、国際海事機関(IMO)は北極海コード(北極域において航行する船舶のための国際コード)の準備を始めた。北極海コードは、2014年から2015年にかけてSOLAS条約およびMARPOL条約それぞれの附属書の改正として採択された。そのため、法的拘束力を有しており、北極海については、特別基準が、船体構造、油濁防止、船員訓練などに関する国際基準に上乗せされたことになる。

北極海コードは、2017年1月1日に発効し、新造船について適用される。また、現存船については、2018年1月1日以降の最初の中間検査または定期検査のいずれか早い時期に適用される。

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