INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第35回/日中環境協力の戦略的宣伝効果

2015年12月15日グローバルネット2015年12月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

東京-北京フォーラム

少し前になるが10月23~25日まで、北京市内で「東京-北京フォーラム」なる大規模な会合が開かれた。主催者発表によれば参加者総数は延べ2,000名以上、日本側のトップは福田康夫元首相で、新旧代議士や自治体の現役首長も参加したかなり政治的色彩の強い会合である。私も特別分科会(環境・観光)の基調報告者・パネリストとして参加の機会を得た。

この「東京-北京フォーラム」は日中関係が悪化し、中国で大規模な反日デモが発生した2005年に設立され、過去10年間にわたり東京と北京で交互に開催されてきた民間対話の舞台である。今回は第11回で私自身が参加するのは2008年の第4回会合以来2回目である。日本側の主催者は特定非営利活動法人「言論NPO」、中国側は中国国際出版集団(昨年までは中国日報社)だ。

政治・外交、経済、安全保障など他の分科会では日中間の対立が目立つが、環境は日中が協調できる数少ない分野の一つだ。このフォーラムには多くの中国メディアが参加していたので、私はこれまでに実施してきた日中環境協力の成果を宣伝できる絶好の機会だと思い、大気汚染と水質汚染対策分野での協力の成果を強調することにした。できるだけ正確に報道してもらうために発言内容をまとめたペーパーも配布した。そしてさらにプレイアップするために、中国で最も権威のある人民日報社に事前に依頼して、私が分科会で発表する直前に同社のニュースサイト(人民ネット)で発表内容の一部を記事として掲載してもらった。

このような仕掛けの効果は絶大で、フォーラム終了後すぐに発言内容がインターネット上で配信され、ちょっと数えただけでも30以上の中国メディアで取り上げられた。日本がいくら協力しても中国国内でなかなか報道されないと言われて久しいが、このように機会を捉えて戦略的に宣伝すれば効果がある。

以下に私が宣伝(発表)した内容を紹介しておく。発表された記事を日本語に仮訳したものだ。少し大風呂敷を広げた内容で恥ずかしい気もするが、中国で宣伝するには誇張も必要と割り切ることが大切だ。

日中水質汚染対策協力の成果は顕著

新中国は建国66周年を迎えるが、そのうちの半分以上の期間は日中両国の間で、環境分野をはじめとしてさまざまな分野で協力が実施されてきている。

私自身も1997年以来ずっと日中環境協力事業に携わり、両国の環境分野の協力の大きな出来事を見てきた。日中両国は一衣帯水の関係にあるが故に、時には熱くなったり冷たくなったりしながら友好協力関係を築き上げてきていることは周知の事実だ。このような関係にある両国の間で、私は環境分野での協力の懸け橋になるべく活動してきた。私自身が直接携わった最近10年間の両国政府間での水質汚染対策分野の協力とその成果について紹介する。

戦略的互恵関係を水質汚染対策協力分野に広げる

2006年10月の安倍晋三首相就任直後の電撃訪中は「厚い氷を割る旅」と呼ばれ、首脳会談により戦略的互恵関係が初めて構築された。この良好なムードの中で、同年12月に日本国環境省と中国国家環境保護総局(当時)との間で両国の大臣が合意して、中国の水環境管理を強化するための日中共同研究を立ち上げた。中国の水環境管理が今後ますます重要になるとの認識で一致したものだ。この共同研究では日中合同の専門家チームを作り、2007年2~10月にかけて六つの省を回り、重要水域の水環境管理の現状と課題について日中共同現地調査・ヒアリングを行った。

この調査を通じて、潜在的な汚染物質排出量が大きい小城鎮(小さな町)や農村の対策を早急に進めることが大きな課題として浮かび上がった。

小さな町や農村の汚水処理対策に重点協力

2008年5月の胡錦涛国家主席訪日時に日中両国の環境大臣間で、「農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力実施に関する覚書」を締結し、モデル事業の実施について合意した。この協力は約4年かけて実施された。中国の異なる条件の小城鎮や農村で「持続可能」な生活排水処理のモデル事業を行った。

「持続可能」と強調したのは、建設コストが比較的安く、維持管理が容易で、かつランニングコストを低く抑え、末永く使えることを目指したものだからである。農村地域を抱える郷鎮政府の税収は低く、自力で高額な建設費は負担できず、また、高度な施設を建設しても維持管理を行える技術者はいないかあるいは人件費が高く、かつ使用料を負担する農民らの収入は低いため、都市地域とは違った考え方で整備を進める必要があった。さらに、維持管理がうまく行われず、作ってから数年も経たずに止まってしまったのでは作った意味がないからだ。この協力では江蘇省、雲南省、黒竜江省、河北省、新彊ウイグル自治区および重慶市の6地域の小城鎮や農村で9基の汚水処理モデル施設を建設して運転し、中国で普及可能であることを実証した。

重慶市では、モデル施設を参考に500ヵ所以上で類似の施設が作られ、また、江蘇省でも1,000ヵ所以上整備され、モデル施設を参考にした同様な施設も多く作られたと聞いている。

排水中の窒素およびリンの総量削減を提案

2006年から開始した第11次5ヵ年計画では、排水中の化学的酸素要求量(COD)の排出総量10%削減措置を実施したが、これだけでは十分な水質改善は期待できず、窒素やリンといった水汚染物質についても強力な規制を実施する必要があった。日本では1990年代からこれらの汚染物質に対する排出総量規制を実施してきた経験があることから、第12次5ヵ年計画に反映させることを目標に、日本国環境省と中国環境保護部との間で専門家グループを組織し、窒素およびリンの総量削減に関する日中共同研究を実施した。その研究過程および成果は、第12次5ヵ年計画でアンモニア性窒素の排出総量削減を実施する重要な参考材料となった。

農村汚水処理政策提言書の起草に着手

現在、これまでの協力実績と日本の技術・経験をもとに、2014年から日本国際協力機構(JICA)と中国住房・城郷建設部との間で、農村汚水処理技術システムおよび管理体系の構築プロジェクトを開始し、農村汚水処理政策および関連技術ガイドラインの提言書の起草に着手している。私たちがモデル事業で実施した協力が中国で根付いていくためにも体系的な政策の立案と技術ガイドラインの作成は不可欠である。

また、今年6月から環境省と環境保護部の間で、中国の水汚染防止を図る上で残された最大の課題の一つである畜産汚染対策分野の協力も開始した。9月には私も参加して日中の専門家が合同で山東省と河南省で現地調査を行った。今後、関連政策や対策技術の提言、モデル事業の実施などを通じて、この残された最大の課題に対する答えを出していく予定である。

以上、概観したように日中水質汚染対策協力の特徴は、常に中国政府が最も必要としている分野で行い、その成果を次の協力へと戦略的に発展させてきたことである。そして、私はこれまでの協力を通じ、日本の優れているものは「技術の信頼性」と「環境意識の高さ」であると感じた。中国がこの二つの難関を克服できれば、中国の環境改善には明るい未来が待っている。

タグ:, ,