フロント/話題と人武本 匡弘さん(環境活動家、プロダイバー)
2019年10月15日グローバルネット2019年10月号
「海で仕事をする以上は海を守る活動がしたい」
~プラスチックフリーの量り売りショップをオープン
ダイバーになって今年でちょうど40年。前半の20年は、国内外の海に潜ればどこも「絵にも描けない美しさ」でまさに「パラダイス」。しかし後半は「胸を締め付けられるような思いばかりの20年」と振り返る。とくに史上最大級のエルニーニョ現象が発生した1997~1998年、海水温の上昇によるサンゴの白化現象で「悲しいくらいに真っ白で美しかった」沖縄の海の光景が忘れられないという。
60歳を迎えたとき、「海で仕事をする以上は海を守る活動がしたい」と経営していたダイビングショップを後継者に引き継ぎ退職。自ら操船する大型ヨットで気候変動や海洋ごみの調査、国際交流を目的にミクロネシア海域を航海する「太平洋航海プロジェクト」を始めた。航海距離は2万3,000kmに及ぶ。気候変動による風や魚の変化、ペットボトルや漁具などが一面に漂流する海……60~70日間の航海から戻ると、航海で体験したことを少しでも多くの人に知ってもらおうと知人を集めて報告会を開いた。しばらくすると生協など主婦を中心とする団体から講演依頼が続くようになり、「社会を変えるのは生活者だ」と強く感じたという。
そこで今年5月、神奈川県藤沢市に「エコストア パパラギ」をオープンした。店では米や野菜のほかさまざまな日用雑貨が売られている。茶葉やナッツ、洗剤などは透明の瓶に入れて並べられ、客は持参した容器に量り売りで入れてもらう。150種類にも上る商品はいずれも無添加、無農薬、プラスチックでない素材など、生産段階から環境負荷の少ないものばかり。店の雰囲気や量り売りのスタイルは、武本さんが海外で訪れた店や外国の友人からの情報などをもとに作り上げたものだという。うわさを聞いて全国から客が訪れ、同じような店を開きたいと申し出ている人もいるという。
武本さんは学校での出前授業や講演会なども積極的に行っている。「これまでの海での体験を伝え、感心しながら聞いてもらえると、知ること自体が希望で、さらにそれが具体的な希望につながると感じる」と武本さん。「小さな行動や環境に関心を持つだけでもいい。環境活動家を名乗る人をどんどん増やしたい」と意欲いっぱいだ。北海道出身、64歳。 (絵)