NSCニュース No. 121 2019年9月環境経営学会「気候非常事態宣言」に関する声明

2019年09月17日グローバルネット2019年9月号

NSC勉強会担当幹事、サンメッセ総合研究所所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)

2019年8月1日、環境経営学会(後藤敏彦会長)は掲題の声明を公表した。これは、わが国初の声明と考えられる。以下、転載する。英語版も掲載される予定である。

世界に広がる「気候非常事態宣言」

本声明公表の背景には、世界各地における以下のような動きがある。

  1. 近年、世界各地で気候変動による甚大な影響が顕在化する中で、2016年12月に世界で初めて「気候非常事態宣言」(CED:Climate Emergency Declaration)を行ったのがオーストラリアのデアビン市である。その後、欧米やカナダを中心に急増している。
  2. これに対し日本では、メディア報道も少ないためか、これまでのところ地方自治体による宣言はない。なお、今年5月には京都市と東京都、6月には横浜市が1.5℃目標と整合的な「2050年までに正味ゼロカーボン目標」を公表したが、宣言には至っていない。
  3. 今年になって、国家としてのCEDも始まり、これまでスコットランド、イギリス(政府と議会)、アイルランド、マン島(政府、国会)、ポルトガル(国会)、カナダ、フランス、アルゼンチンなどの10ヵ国・地域が宣言している。
  4. 大学でも今年に入って欧米を中心にCEDの公表が増え、すでに13校となったが、日本では皆無。ダイベストメント(化石燃料産業への投資撤退)についても、イギリスのケンブリッジ大学、オックスフォード大学やアメリカのスタンフォード大学などが行っているが、日本の大学で宣言しているところはまだない。
  5. CEDを宣言する世界の国、自治体、大学、団体が次第に増える中(宗教家も動く)、日本の行政機関や諸団体による「気候非常事態」の宣言はなく、国民的ムーブメントがないままで、気候危機や環境危機を本当に乗り切れるのか強く懸念される。そこで、環境経営学会は趣旨に賛同する会員有志の名(本稿では割愛)において、「気候非常事態宣言」に関する声明を公表した(下記囲み)。

「気候非常事態宣言」に関する声明

2019年8月1日

認定特定非営利活動法人環境経営学会

会長 後藤 敏彦

1. 人類の活動を原因とする気候変動によって劣化する地球環境は、もはや持続可能とは言えず、危機的状況にあると認識する。

2. 環境経営学会は、気候変動の「緩和」と「適応」について積極的に研究・実践し、広く社会に向けて啓発を行う。

3. このことは、日本政府の「経済と環境の好循環政策」だけでなく、SDGsの目標達成やESG金融の促進にも資する。

4. 日本政府、地方自治体をはじめ科学者組織、NPO/NGOを含む諸団体に、「気候非常事態宣言」について広く連携を呼びかける。

〔注釈〕

  1. 本声明は、同学会の特別顧問で東京大学名誉教授の山本良一先生の発意により行われたものである。
  2. 山本先生によれば、CEDの世界的な拡大の背景には、「各国で政策の遅れがあり、パリ協定の2℃目標の達成もおぼつかないこと」や「極端気象現象の頻発や生物多様性の急速な減少が起きていること」、さらに「科学的知見の蓄積による、気候変動の緊急事態性の認識の広まり」や「青少年による気候ストライキの爆発的拡大」などがある。
  3. 宣言運動を展開しているオーストラリアの専門団体CEDAMIA(Climate Emergency Declaration and Mobilisation in Action、気候非常事態宣言と動員)のWEBサイトの気候非常事態宣言都市一覧(Governments emergency declaration spreadsheet)によると、2019年8月末で18ヵ国976自治体が宣言している。

タグ: