特集/シンポジウム報告 動き出した自治体~先進自治体の「プラごみゼロ宣言」~SDGs未来都市とかまくらプラごみゼロ宣言
2019年09月17日グローバルネット2019年9月号
神奈川県鎌倉市 市長
松尾 崇(まつお たかし)さん
鎌倉市は2018年6月、「未来都市・自治体SDGsモデル事業」の選定を受けました。
実は昨年の夏、シロナガスクジラの赤ちゃんが鎌倉市の由比ガ浜海岸に打ち上げられました。日本では初めてではないかと言われています。その赤ちゃんのお腹の中から8㎝のビニール片が見つかりました。プラスチックごみが直接の死因ではなかったのですが、母乳しか飲んでいない赤ちゃんクジラの体内にプラスチックごみがあったことは、赤ちゃんの漂着以上にショッキングな出来事でした。
鎌倉市議会では、このクジラの赤ちゃんからのメッセージを受け止め、SDGs(国連持続可能な開発目標)の目標を反映させる取り組みを求める決議を2018年9月28日に採択し、それを受ける形で10月1日、鎌倉市は「かまくらプラごみゼロ宣言」を発表しました。もともとごみの焼却や埋め立てをゼロにしていくという「ゼロウェイスト」の目標を掲げて環境行政を進めていましたが、その歩みをより力強く進めていく契機となりました。
「かまくらプラごみゼロ宣言」と市の取り組み
まず、「宣言」の具体的な取り組みはマイバックの利用促進です。自治・町内会から推薦いただいた方を廃棄物減量化等推進員として委嘱し、スーパーの前のキャンペーン等で「買い物にはマイバッグを利用しましょう」と呼び掛けていただいています。行政が直接言うより市民同士で伝え合うのは効果的な活動だと考えています。
また、リユース食器の利用(100個以上)に対し、市が利用料の2分の1(上限は5万円)を補助しています。イベント等で活用してもらっていますが、2018年度の実績では延べ19件の利用がありました。
さらに、ごみゼロについて事業者向けの周知啓発を市の職員が個別訪問して進めています。2017年度は561社を直接訪問し、レジ袋などの削減、事業所や工場等で出る容器包装などのごみの減量化などを徹底してもらうように働き掛けており、事業系のごみの分別ではかなりの効果を上げています。
一方、市の職員が率先垂範しなければいけないので、マイバッグ、マイボトルの利用を促すため、職員が閲覧できる庁内掲示板やパソコンを立ち上げると「マイバッグ、マイボトルを使いましょう」というメッセージが画面に表示されるようにしています。そして、会議などでのペットボトルの提供をやめる取り組みも進めています。
マイカップ対応自販機を市役所内に設置
2019年4月からは市施設内の自動販売機でペットボトル入り飲料の販売を廃止しました。マイカップに対応したタイプの自販機もあり(写真)、その自販機からマイカップで飲み物を買うと10円安くなります。市役所内の自販機は全部取り換えました。さらに、市役所にはもともと給茶機がありましたが、それも1ヵ所増やしました。
事業者・NPOとの取り組み ~さらなるプラごみゼロの実現に向けて
事業者やNPOとの取り組みでは、鎌倉駅近くにあるパタゴニアの日本支社設立30周年を記念して、「プラごみゼロ宣言」をキーワードにしたイベントを開催しました。6月に行われたコミュニティ・マーケット「鎌人いち場」では、パタゴニア鎌倉の取り組みに市が協力して、ご家庭で使われていない紙袋やマイバッグを「旅するマイバッグ」と名付け、マイバッグを忘れたお客さんにストックしておいた「旅するマイバッグ」を使ってもらいました。使う際、袋にパタゴニアで作っていただいた「departure(出発)」のスタンプを押し、それを使い終わったら、会場のブースか後日回収協力店に持ち込むと「arrived(返ってきました)」のスタンプを押す。袋はいろいろな人に使い回されるので、それを「旅するマイバッグ」と呼ぶのです。
市内には「お水を無料で提供しています」という看板を出している店もあります。プラスチック製ストローに代えて生分解性のストローを使ってもらう取り組みもしています。中には取り組みによって、半年でごみの排出量が4分の1に減ったという店もありました。
また、「鎌倉 海のアカデミア」という、市民の方々が主催するイベントがあります。戦後の高等教育を行う学校「鎌倉アカデミア(1946年、市内の文化人らにより鎌倉市材木座に作られた私立の学校)」をもじって、海に親しむ取り組みをしていただいています。海で拾ったプラスチックごみを集め、それを使って物を作ったり、油に変える技術を市民の皆さんに伝えたりする機会を作りました。
今後は、市民、事業者、行政が連携した取り組みを推進し、他の自治体とも連携し、さらにプラごみゼロに向けた取り組みを力強く進めていきたいと考えています。