ホットレポート「脱プラスチック」から「脱使い捨て」へ
 ~世界の動向と日本の進むべき方向性

2019年07月16日グローバルネット2019年7月号

水Do!フォーラムネットワーク 事務局長
瀬口 亮子(せぐち りょうこ)

●急速に進む世界の「脱プラ」

近年、海洋プラスチック汚染の深刻化や中国および東南アジア諸国による廃プラスチック輸入禁止等により、プラスチックごみ問題が、世界の緊急課題になっています。海ごみ対策として、流出防止を強化すべきことは言うまでもありませんが、リサイクルし切れないほどの消費は過剰であるとようやく世界が気付かされ、各地で使い捨てプラスチック製品の削減のための取り組みが急速に進んでいます。レジ袋の無償配布禁止やプラスチック製袋の製造禁止等を制度化している国は、少なくとも67ヵ国に上ります(2018年国連環境計画)。

レジ袋以外のアイテムへの規制として、注目されるのが、欧州連合(EU)の使い捨てプラスチック指令です。2018年5月28日に欧州委員会が提案したその案は、欧州の沿岸で最も頻繁に発見される使い捨てプラスチック製品10アイテムを挙げ、すでに代替素材への転換が可能なプラスチック製ストロー、カトラリー、綿棒等の流通を禁止し、その他の容器包装等も拡大生産者責任や消費の削減を強化するというものでした。これを契機に、大手コーヒーチェーンやホテル、航空会社等が、次々とプラスチック製ストローやカトラリーの使用廃止を打ち出し、2018年夏は世界中でストローが話題になったのは記憶に新しいところです。しかし、ストローを脱プラしても、その下にあるカップはプラススチックの使い捨てのままであることに疑問を抱いた人は少なくないでしょう。

同指令はその後、発泡スチロール製の食品・飲料容器等も禁止アイテムに追加する等若干強化されて、議会の承認を得て、2019年5月21日、理事会の最終採択を受けて発効の運びとなりました。EUが推進するサーキュラーエコノミー(循環経済)は、プラスチックからバイオプラスチック等の代替素材への転換を大きなビジネスチャンスと位置付けていますが、単なる素材転換だけでなく、使い捨て品の使用自体が削減されるかどうかは、今後、加盟国が国内法でどこまで野心的な制度づくりに取り組むかにかかっているといえるでしょう。

●米国の脱プラ、脱使い捨ての動き

水Do!ネットワークでは、2018年9月に、米国西海岸で脱プラおよび脱使い捨ての調査を実施しました。ワシントン州シアトル市は、同年7月から「条例でプラスチックストローの使用を禁止した」と報じられていましたが、正確には、そのような条例が新たに出来たわけではありません。同市は埋め立て処分場の逼迫から2007年より「ゼロウェイスト」政策を掲げ、堆肥化とリサイクルを推進してきました。2010年、飲食店に対し、すべての使い捨て容器を堆肥化またはリサイクルすることを義務付けましたが、当時ストローやカトラリーは代替品が普及していないため免除措置が取られました。その後、代替品が十分に普及したため、2018年7月に免除措置が停止され、リサイクルしにくいストローやカトラリーは堆肥化可能なものに限定されたのです。街中のカフェ等では、すでに堆肥化可能なストローが提供されていましたが、飲み終わった後に、プラスチックの飲料カップはリサイクル、ストローは堆肥化に間違いなく分別するのは、来街者には難易度が高いと感じました。

カリフォルニア州サンフランシスコ市は、本誌2015年1月号で報告したとおり、2014年10月より、市が所有する施設、敷地内でのペットボトル入り飲料水の販売を禁止しました。その後、2017年1月には、この条例の対象容器が拡大され、プラスチックだけでなく、紙パック等を含め「あらゆる使い捨て容器入りの飲料水」の販売が禁止されるようになりました。市の担当者は、「どんな素材の容器であれ、使い捨て容器入り飲料水は、ライフサイクルのエネルギー消費が大きい。質の高い水道水を提供している当市ではこれを選択することがベストである」と、条例強化の理由を説明します。市の敷地や施設でイベントを開催する主催者は、参加者への飲料水提供方法の計画書を提出しなければならず、市では、イベントの規模に応じた仮設給水機等を紹介しています。

この訪問中に関係者から、同州バークレー市で画期的な使い捨て食器規制の条例案が審議されていることを聞きました。2019年1月に市議会で満場一致で採択され、3月に施行された「使い捨て食器ごみ削減条例」は、あらゆる持ち帰り食品・飲料の販売事業者を対象とし、2020年1月からすべての使い捨て食器は堆肥化可能な素材とすること、使い捨てカップは25セントの有料制とすること、2021年1月より店内の飲食はすべてリユース食器で提供することが義務付けられます。店内飲食での使い捨て容器が確実になくなり、持ち帰りカップも有料制にすることで自分の容器を持参する客が増えれば、使い捨て食器の使用は最小限に抑制できます。素材転換よりもまずは使い捨てという行為を「回避」する同市の施策は、脱使い捨てのトップランナー的な事例といえるでしょう。

●日本の脱使い捨てに向けてRefill Japanスタート!

こうした世界の動きに比べ、日本が遅れを取った印象は免れません。それを象徴するのがレジ袋有料化導入の遅れです。2013年から2016年にかけて行われた容器包装リサイクル法見直し審議では、これまでの自主的取り組みによる削減の限界が指摘され、国の制度としての有料化等の導入が提案されたにもかかわらず、調整がつかずに見送られてしまいました。2018年夏から審議されたプラスチック資源循環戦略の素案の中で初めて「レジ袋有料化」の方針が示され、2019年6月15日、G20サミットを前に「早ければ2020年4月から実施」と発表されましたが、世界の潮流に押されてやっと重い腰を上げたように見えてしまうのは残念でした。

しかし、日本の民間の取り組みは遅れているとは決して思いません。特に、各地のイベント会場やスタジアムで実施されている「リユース食器」の取り組みは、欧米で進んでいる素材転換して使い捨て容器を使い続けるスタイルとは異なり、使い捨て容器の使用自体を回避するもので、環境負荷の低減効果がはるかに高いものです。2018年からは、京都の祇園祭に続き、大阪の天神祭でも導入が開始されており、この動きをぜひ全国に広げたいと思います。

そして、ペットボトルの削減に向けて、5月29日、水Do!ネットワークは新たな活動のプラットフォーム「Refill Japan」を立ち上げました。街中で誰もが利用できる水飲み場・給水機やマイボトルに無料で給水してくれるお店等の「給水スポット」を増やし、利用を広げることで、環境負荷の低減と魅力的なまちづくりを推進します。6月1、2日に代々木公園で開催されたエコライフフェア(主催:環境省)では、日本初導入となる水道直結式仮設給水機をブースに設置し(写真)、300人以上の来場者が喉を潤し、水筒に水を満たしました。7月末には、最寄りの給水スポットをスマホで探すことのできるマップも公開し、各地の市民団体、自治体、企業等、さまざまな主体に参加いただきながら活動を広げます。2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックの頃には、訪れる大勢の人びとを「蛇口の水でおもてなし」し、日本型の「脱使い捨て」社会を世界に示すことができればと思います。

Refill Japanが導入した水道直結式仮設給水ステーション。
左がじか飲み用、右がボトル給水用。

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