特集/シンポジウム報告「気候変動影響研究と対策の最前線」温室効果ガスの排出削減と温暖化の被害軽減のバランスは?
2019年07月16日グローバルネット2019年7月号
国連大学、東京大学 教授
沖 大幹(おき たいかん)さん
日本は2015年時点で世界の3.5%にあたる年間11.5億tのCO2を排出していますが、それがどれくらいの影響を及ぼしているかということを考えてみます。
10億tのCO2を排出すると、全球平均気温は約0.0005℃上昇します。世界全体では、私たち日本の約33倍のCO2を排出しているので、平均気温は毎年0.016℃、100年経てば1.6℃上昇することになるのですが、政策的な緩和策を行わないシナリオ(RCP8.5)の場合は、2080年までに総計4,000GtのCO2を追加的に排出し、場合によっては気温は4℃以上、上がってしまうのではないかと懸念されます。
10億tのCO2を追加的に排出した場合の損失
10億tのCO2を追加的に排出した場合、どれくらいの健康寿命が失われるかというと、食料が減り、それによって低栄養になる人が出る、そして下痢や熱ストレスによる健康障害、マラリア、デング熱が増え、海岸の洪水によるリスクも上がる等、100年間で年あたり130~200万人年という健康寿命が失われると推計されます。
一方、生態系への影響はどうかというと、同じく10億tのCO2を排出することによって今後100年の間に30万種の植物のうち1~3種が絶滅するという推計結果が出ています。
一人1年分の健康寿命をお金に換算すると約260万円、一生60年として換算すると1億5,600万円になります。また、1種類の植物の絶滅は約1.3兆円の損失に相当するという調査結果もあります。
これらの数字から考えてみると、日本全体で排出されるCO2で、健康被害と生物多様性の損失についてだけでも、100年間で5~9兆円相当の損失を出してしまっていると推計されます。
緩和策と適応策の統合評価検討 ~今後1年くらいでまとめへ
ライフサイクルコスト(LCC)で検討すると、例えば途上国で温暖化に伴い、安全でない水で健康が失われるという被害がありますが、浄水器を使うという適応策は導入する費用が少なく、被害も大きく減らせます。また、照明にLEDを導入するのも効率が良く、使うコストに対し緩和策としてのメリットも多く得られます。
さらに、海水淡水化による水リスクの緩和やインバータのエアコンを導入するのもメリットはかなり大きいということがわかりました。
このように、温室効果ガスを削減する緩和策と適応策とのトータルのメリットと、例えば幸福度のようなもので評価して、どういう物を導入したらいいかということをようやく包括的に考慮できるようになりました。本プロジェクトではこれを一つひとつ積み上げて、緩和策と適応策をどのように組み合わせていけばいいのか、ということを、あと1年くらいでまとめていこうとしています。