フロント/話題と人ジェマ・ティラックさん(米国NGOレインフォレストレインフォレスト・アクション・ネットワーク 森林政策ディレクター)
2019年04月15日グローバルネット2019年4月号
日本のNGOとタスマニアの森を守った経験で東南アジアの森を未来へ
世界的に進む熱帯林の減少を抑制しながら、開発可能な地域を特定し経済的な持続可能性も目指すために考案された新しい手法「高炭素貯蔵アプローチ(HCSA)」の紹介のために3月、初めて来日した。オーストラリアの熱帯林地域クイーンズランドの自然の中で育ち、大学では環境科学を専攻し森林や生物多様性について学ぶ中で、自然環境の保全のためには自ら行動することが重要だと考えるようになったという。
初めて自然保護活動に関わったのはタスマニアの森林を守る活動。タスマニア島を旅した時に樹齢400年を超える巨木の森が伐採され、製紙原料として日本に売られていることを知り、地元NGOのスタッフとなって伐採中止を求めるキャンペーンに加わった。タスマニア州政府と地元企業による伐採は30年以上続き、その間にタスマニアの貴重な森林の多くが失われていた。しかし主要な販売先だった日本を含む世界中のNGOなどの協力を得て、新しいパルプ工場の建設を阻止し、伐採業界やタスマニア州政府との交渉を経て、残された天然林を保全し、製紙業界の原料を天然林から植林に変える合意を得ることができた。伐採中止を受け、タスマニアに残された森は2013年に世界遺産として保護されることになった。
この大きな成功体験が、ティラックさんのその後の活動を支えている。日本のNGOは存在感が薄いといわれるが、ティラックさんは「タスマニアでの成果は、日本のNGOによる日本の製紙業界への働き掛けにより得られたもの。日本の市民運動と紙市場がタスマニアの森の未来を救った」と言う。
現在は危機的な状況にあるインドネシアの熱帯林保全に力を注ぐ。「人びとが森林に関心を持ち、活動に参加して、戦略的に取り組むことができれば、残されている重要な森林を守り、過去に破壊された森林も回復させることができる」と考えている。HCSAのような森林保全の新たな手法に企業が積極的に取り組み、タスマニアで日本のNGOが役割を果たしたように、日本社会がアジアの森を未来に残すために行動することを期待している。 (ぬ)
※HCSAについては5月号の特集で紹介します。