特集/メガスポーツイベントと環境問題スポーツイベントにおける「脱使い捨て」の取り組み

2019年03月15日グローバルネット2019年3月号

(一財)地球・人間環境フォーラム
 天野 路子(あまの みちこ)

今年9~11月にラグビーワールドカップ、来年夏には東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)というメガスポーツイベントの開催が相次いで予定されています。大勢の観客が訪れるスポーツイベントの開催によって、大量のエネルギー消費や廃棄物が発生しないよう、国内では持続可能な大会運営を行い、レガシー(遺産)として広く定着させるための試みが始まっています。本特集では、すでに世界中で始まっている環境対策や取り組みも紹介しながら、今後国内で開催されるメガスポーツイベントでの環境対策のヒントを探ります。

 

スタジアムでのスポーツ観戦といえば、ビールを片手に観戦することが醍醐味と感じる方も多いかもしれませんが、一方で、多くの観客が熱狂した後のスタジアムに大量のごみが散乱している光景を目にしたことがある方もいることでしょう。昨年開催された国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップロシア大会では、試合後に日本のサポーターがスタンドに落ちたごみを拾う姿が海外から称賛され、サポーターに対してFIFAが送る「年間ファン賞」にもノミネートされて話題となりました。しかし、スタジアムにごみが散乱している光景は、ずっと変わっていないように思われます。

では、そもそもごみの出ないスポーツイベントにするには、どのような方法があるのでしょうか。

ドイツのリユースカップ

ドイツでは1990年代後半から使い捨てカップを、繰り返し洗って使用するリユースカップに替え、大幅なごみ削減を実現しています。

1995年にサッカースタジアムで初めてリユースカップが導入されたフライブルクでは、市の所有地で開催されるイベントでは使い捨て食器の使用を禁止するガイドラインがありましたが、サッカーやコンサートの会場については興奮した観客がガラスや陶器の容器を投げると危険という理由から対象外とされ、使い捨て容器が使われていました。

しかし、サッカースタジアムから出るごみも減らそうと、プラスチック製のリユースカップを導入。デポジット(預り金)をかけて飲料を販売し、利用者に返却を呼び掛け、回収したカップを洗浄して繰り返し使用したところ、スタジアムから出るごみの60%以上が削減されました。リユースカップはその後、2000年のハノーファー万博をはじめ、ドイツ国内で開催されたさまざまなイベントでも普及し、サッカーのメガスポーツイベントにおいても利用されています。

2006年に開催されたFIFAワールドカップドイツ大会では、環境対策を全面的に打ち出した「グリーンゴール」という大会コンセプトの下、サッカーワールドカップ史上初めてリユースカップが導入されました。開催12都市中9都市のスタジアムやパブリックビューイングで、1ユーロ/個のデポジットをかけて飲料を販売し、売店や特設の回収所で回収、大会期間中に繰り返し洗浄して、計440万個の使い捨てカップを削減しました。

2011年にサッカー日本女子代表チームが優勝したFIFA女子ワールドカップにおいても、再度「グリーンゴール」を大会の基本コンセプトに位置付け、リユースカップが導入されました。「FIFA Women’s World Cup 2011 Green Goal Legacy Report」によると、他のイベント等で使用されていた無地のカップに加え、ワールドカップ仕様のカップを新たに30万個製造し、観客だけでなく、ボランティア、メディア、VIPエリアでも導入しました。ワールドカップ仕様のカップの11%は観客がお土産として持ち帰り、残ったカップはスポンサーの飲料メーカーが買い取り、アマチュアのサッカークラブに寄付されるなど、ドイツ各地で活用されたそうです。

国内のリユース食器、リユースカップの導入

ドイツの例を参考に、日本国内でも2000年代初めから一部サッカースタジアムでリユースカップの導入が始まり、山梨、新潟、川崎のスタジアムでリユースのカップや食器が導入されています。

また、日本三大祭りの京都の祇園祭では2014年から、大阪の天神祭では2017年からリユースのカップと食器(トレー)が導入される等、100万人規模の祭りやイベント等での導入も進んでいます。

さらに、自治体が数年おきに学校給食用の食器を入れ替える際にまだ使える食器が活用されていたり、カップや食器の洗浄・保管を社会福祉施設が担うことも多く、環境と福祉をつなぐ取り組みとして、また地震等の災害発生時に非常用の食器としても活用されています。

持ち帰りを推奨する運用

国内では今年の秋にラグビーワールドカップ、来年には東京2020大会と、メガスポーツイベントが続けて開催されます。これまで国内で開催されたメガスポーツイベントではリユース食器やリユースカップが導入されたことはなく、観客が売店に集中し混雑する中でも安全でスムーズな運用ができるか、利用者への周知徹底をいかに行うか、導入費用をいかにまかなうか等が課題として想定されました。

しかし、この課題をクリアするヒントがフランスにありました。フランスでは欧州サッカー選手権(EURO)等のメガスポーツイベントでもデザイン性の高いイベント限定のオリジナルカップを導入し、来場者の約80%が記念に持ち帰って活用することにより、カップの販売収益で導入にかかる費用をまかなうという仕組みで、年間7,000万個が利用されていました。

味の素スタジアムで導入されたラグビーの試合限定デザインカップ

この事例を参考に、当財団ではNPO iPledge、(株)台和、(社福)きょうされんリサイクル洗びんセンターと協働で2018年11月3日に東京の味の素スタジアムで開催されたリポビタンDチャレンジカップ2018ラグビー日本代表対ニュージーランド代表の試合において、リユースカップを導入しました(写真)。

試合限定デザインのカップを導入し、利用者が持ち帰ることを推奨し、返却すればカップ代を返金するという仕組みで、ソフトドリンクでも使い捨てのふたとストローはごみ減量のため、付けずに提供しました。

国内で開催されたラグビー日本代表戦としては最多となる4万3,571人が来場する中、販売数は9,885個、返却数は939個と、90.5%が持ち帰られる結果となりました。利用者には非常に好評で、同じカップで何杯もおかわりする光景もあり、一つのカップでおかわり分の使い捨てカップ削減にもつながりました。また、ふたとストローが付いていないことに対するクレームもなく実施することができました。

メガスポーツイベントでもごみゼロを

味の素スタジアムは今秋のラグビーワールドカップ開幕戦の開催会場であり、東京2020大会では、サッカーやラグビー、近代五種の会場にもなっています。同スタジアムで、混乱なくスムーズに運営できることが実証できたことから、当財団等では、ラグビーワールドカップや東京2020大会の各組織委員会やスポンサー企業、自治体等にリユースカップの導入を働き掛けています。

ドイツでは使い捨て容器の使用を禁止するガイドライン、フランスの一部自治体ではイベントでの使用を禁止する条例が制定されており、法整備も後押しとなってリユースカップの利用が定着し、メガスポーツイベントでも導入されているという流れがあります。

東京2020大会の運営計画には、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費及び生産の形態を確保する」ことを実現する上で、運営時廃棄物の再使用・再生利用を進める一つの取り組みとして「リユース食器の利用に可能な限り取り組む」と明記されています。東京2020大会での導入をきっかけに、リユースカップの利用がレガシー(遺産)となって、大小さまざまなスポーツイベントで、ごみの散乱しないスタジアム、ごみが出ないスタジアムが定着するよう期待します。

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