環境条約シリーズ 320ラテンアメリカ・カリブにおける環境分野の参加保証などに関するエスカス協定

2018年11月16日グローバルネット2018年11月号

前・上智大学教授 磯崎 博司

地球サミットで採択されたリオ宣言の原則10は、環境分野における情報入手・決定参加・司法利用に関する公衆の権利保障を定めている。それを受け、1998年6月に国連ヨーロッパ経済委員会により、環境分野の情報入手・決定参加・司法利用に関する条約(オーフス条約)が採択された(本誌1999年1月)。

国連環境計画が他地域にも同様の取り組みを促したのに応えて、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会の枠内で、2014年から9回に及ぶ交渉会議が重ねられてきた。その結果、2018年3月4日に、ラテンアメリカおよびカリブにおける環境分野の情報入手・決定参加・司法利用に関する地域協定(エスカス協定)が採択され、9月27日に国連本部(ニューヨーク)において署名開放式が行われ、14ヵ国が署名した。

エスカス協定は、オーフス条約と同様に、現在および将来のすべての人の健全で豊かな環境に生活する権利の保護に向けて、情報入手・決定参加・司法利用に関する公衆の権利を保障するために必要な法的・行政的措置を取るよう締約国に義務付けている。

他方、オーフス条約とは異なる特徴も見られる。エスカス協定は、平等・非差別、透明性・説明・公開、非後退・前進、信義・誠実、防止・予防、世代間衡平、自然資源恒久主権、主権平等、人権などの、前提とされる諸原則を明記している。持続可能な開発への権利保障も目的としており、前文は持続可能な開発目標(SDGs)のための2030年アジェンダ(本誌2015年9月)に触れている。また、環境分野の人権保護活動者の行動の自由の保証と、それに反する攻撃や脅迫行動の防止と処罰を義務付けており、それは、人権保護活動者に関する国連宣言(1998年)を反映している。ただし、その背景には、世界の環境保護活動者に対する殺害事件の約60%がこの地域で発生していることがあるため、人権保障はこの協定にとって大きな挑戦である。さらに、非公用語の使用者への支援を含む能力構築措置、また、裁判外紛争解決手続の活用も定めている。

この協定は、11ヵ国の批准の後90日で発効する。

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