特集/気候変動にいかに備えるか~異常気象の続いた今夏を受けて改めて考える~異常気象に備えて市民にどう伝えるか~この夏の経験と気象キャスターの取り組み~

2018年11月16日グローバルネット2018年11月号

NPO法人気象キャスタ―ネットワーク代表
藤森 涼子(ふじもりりょうこ)

私が天気予報の番組に出演するようになったのは、大学2年生の秋、民放の「お天気お姉さん」のオーディションに合格したからです。今から30年以上前のことです(年がバレますが、思い切って書いています)。番組の記者発表で、オーディションを受けた理由を雑誌の記者に聞かれて私が答えたのは「お天気お姉さんって、何となく知的な感じがするから…」。ああ、そんな時代が懐かしいです。

この30年の間に気象予報士の資格ができ、「お天気お姉さん」「お天気おじさん」は「気象キャスター」と呼ばれるようになり、ワイドショーや情報番組にも登場するようになりました。伝える内容も、気象、防災、生活、季節などの情報のほか、避難につながる情報から地球温暖化や天文のことまで。「何となく知的」では対応できないほど多岐にわたる知識を求められるようになりました。

テレビの天気予報の情報の限界を実感した今年の大雨

今年の夏はまず「平成30年7月豪雨」により、西日本を中心に大きな被害が出ました。その特徴は、昨年福岡で大きな被害を出した「平成29年7月九州北部豪雨」や、2014年広島に大きな被害をもたらした「平成26年8月豪雨」と違い、数日前から予測ができていたこと。気象庁も異例の会見をし、私たちもその内容を伝えました。線状降水帯と呼ぶにはあまりに幅広い雨雲がかかり、それが停滞するという情報を伝え、昨年7月から始まった「危険度分布」の見方を紹介した番組も多かったようです。また避難の際の注意事項や、避難することの方が危ないと思ったら2階に逃げる垂直避難、土砂災害の危険があったら崖から一番離れた部屋に逃げる、そんな具体的な避難の仕方まで伝えました。

しかし、残念ながら大きな被害が発生してしまいました。予測できた大雨で、数日前から天気予報だけでなくニュースコーナーでも最大限のアラートを鳴らし続けた結果の被害でしたから、無力感を感じ、テレビの天気予報が伝える情報には限界があると実感しました。人々に避難を促し人的被害を軽減するには、情報の伝達の「役割分担」を明確にした方が良いと思います。まずテレビやラジオで気象キャスターが大雨の可能性があるというアラートを鳴らし、人々はその状態であることを認識する。実際の大雨の際、気象キャスターは実況と予想を伝え、具体的な避難情報は、気象庁と自治体が連携して伝え、早めの非難を呼び掛ける。番組によっては、気象キャスターが危険度分布まですべての情報を伝えていた今年の大雨の際のニュースを見ていると、災害から身を守るための情報はさまざまな立場の人が連携して発信することが大切だと実感しました。

生活の工夫や応急手当の方法まで伝えた今年の猛暑

大雨の後は、記録的な猛暑が続きました。人が一番多く亡くなる気象災害は、大雨でも台風でもなく、実は暑さなのです。2010年の猛暑の夏には1,700人以上の方が熱中症により亡くなっています。

今年の暑さも異常でした。埼玉県熊谷市で41.1℃と日本の最高気温の記録を更新し、東日本(関東甲信、北陸、東海)の平均気温は平年より1.7℃高く、1946年の統計開始以降、最も暑い夏となりました。この暑さに関しても気象庁は異例の会見を開き、「命に関わる危険な暑さ」になることを発表しました。天気予報の中では予想最高気温はもちろん、30℃を超えている時間が何時から何時までか、涼しく過ごすための生活の工夫、熱中症のサインや危険度の見分け方、応急手当なども紹介しました。「今夜は冷房を使用してください」「冷房のある部屋からなるべく出ないようにしてください」などと伝えましたが、こんなコメントは私が天気予報に携わって30数年で初めてだったと思います。

「普通」の状態を認識して、異常気象から命を守る

では、異常気象が頻発している今日この頃、避難をし(してもらい)命を守るためにはどうすればいいのでしょうか。先ほども書いたように、テレビやラジオでの呼び掛けには限度があり、大雨が降ることがわかっていても逃げない人はたくさんいます。ですから、まず自分自身が気象に関して①知識を持ち、②情報を取りに行き、③最後は自分で判断して逃げるしかありません。「これは異常だ! 逃げなくては!」という、人間が動物として持っている「野生の勘」のような危険察知能力も必要なのかもしれません。

「異常だ!」と感じるにはまず「普通」の状態をしっかり認識しておくことが大切です。普段から空を見る、風を感じる、雨の音を聞くなど天気に興味を持つ。ゲームをしたり動画ばかり見ていないで、屋外に出て自然を感じる。自然の中で五感を研ぎ澄ますことで防災力は磨かれていくのだと思います。雨が降るときはスマホのアプリで雨雲を確認し、台風が来るときはインターネットで予想進路を確認する。普段からそういうことができるようになれば、いざという時も必要な情報を手に入れ、自身の判断で逃げることができるのではないかと思います。

防災力を身につけてもらうことも使命として活動

全国の気象キャスターが集まったNPO法人気象キャスターネットワークは、2004年の設立当時から、気象や防災、環境をテーマとした小学校出前授業や親子イベントなどを実施して、楽しみながら気象や環境に興味を持ってもらうための活動をしています(写真)。内容は危険な雲の見分け方、雨の重さ、1時間に1~80ミリ以上の雨の体感、特別警報とは何か、土砂災害や竜巻の前触れなど。座学だけでなく、ペットボトルで雲を作ったり、被雷のポーズをみんなでやってみたり、竜巻を手回し発電で作ってみたり、遊びながら、楽しみながら学んでもらいます。

小学校での出前授業

以前、ある研究者が「気象予報士などがペットボトルで雲を作ったりしているが、そんなことをやっても災害で死ぬ人は減らない」と言っていたと聞きました。確かに、わかりやすい効果はすぐには出ないかもしれません。でも、イベントに参加した子供が「特別警報」の重みを知って、大雨の際にいち早く「お母さん、逃げよう!」と言い、「今夜は取りあえず2階で寝よう」ということにならないでしょうか? 

小さな種まきかもしれませんが、人々に防災力を身につけてもらうことも私たちの使命として、気象災害の軽減に向けて活動していきたいと思っています。

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