環境ジャーナリストの会のページオーガニック見本市におけるプレゼンテーションの課題

2018年10月16日グローバルネット2018年10月号

JFEJ準会員
腰塚 安菜

8月16~18日、韓国・ソウルで開催された「第17回オーガニック&ナチュラル トレードフェア2018」の最終日に参加した。筆者は2015年に韓国中部の槐山郡で開催された国際オーガニックエキスポ「ISOFAR 2015」にも参加している。今回はその当時に知り合った国際有機農業運動連盟(IFOAM)アジア理事で韓国出身の鄭 萬哲氏と再会し、一緒に回った。

IFOAMは、1972年にフランス・ベルサイユで設立され、世界的に有機農業運動をリードする団体で、世界中に関連組織があるが、日本にも国内の有機農業推進のために活動している生産・流通団体などが中心となって設立されたIFOAMジャパンがある。鄭氏は自身が大学生の時から有機農業運動に参加しており、神戸大学への留学経験もある。とくにアジアの有機農業普及に尽力しており、今回のエキスポでは隣国、北朝鮮への有機農業支援の進捗についてプレゼンテーションも行った。

ISOFAR 2015での緑のアーチ

「オーガニック」の本質を伝えるには

今回鄭氏と見学している中で、私はこれまでの他の見本市の参加経験を振り返り、見本市などのイベントで表される「オーガニック」とは、生活に取り入れやすい商品やサービスで、来場者に付加価値を理解してもらい、将来的に投資してもらうためのコミュニケーション材料に過ぎないことを実感した。有機農業の世界を見続けてきた鄭氏も「商品プレゼンが主眼の見本市で、農業に立脚した『オーガニック』までを伝えることには限界がある」と話していた。

しかし、オーガニックの世界を“全身体験”する演出のヒントは、ここ韓国で確かに目にしたことを思い出した。3年前のISOFAR 2015は、会場の地域一帯がグリーンツーリズムの舞台となっていたエキスポで、一面に緑のオーガニックコットン畑や野菜庭園が広がる会場はさることながら、会場にたどり着くまでも周辺の自然を見ながら歩く壮大なフットパス(イギリス発祥。森林や田園の風景などを楽しみながら歩く概念)であった。子供たちや高齢者が社会見学に集まる場ともなっており、こうした体験があると多くの人に、より開かれたイベントになるに違いないと感じた。

見本市を魅力的なものにするために

オーガニックは、韓国では商品などに「有機農(読みはヨギノン)」という文字で表される。日本では「有機」と横文字の「オーガニック」とが使われているが、本当の意味を理解している消費者は少ないだろう。

オーガニックをテーマとした専門展示会・見本市は、ドイツ・ニュルンベルクで毎年2月に開かれる世界最大級の「BIOFACH」をはじめ各国で年間多数開催されている。ソウルで開催された2週間後、日本では横浜で、また8月中には中国の上海、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでも開催されていたが、内容はほぼ今回と同じであったようだ。

閉鎖的な展示ホールの中の、さらに閉鎖的なブースで、環境や生態系に配慮するオーガニックの考え方を伝えるには空間的な限界があるだろう。しかし、見本市をより魅力的なものにし、より深い理解を促すための「工夫」はできるのではないか。国内外でオーガニックをテーマに開催される、数々のイベントや商品を見つめてきて、今年で10年。その効果的な伝え方について、今もなお、思案し続けている。

タグ: