フロント/話題と人エゾ鹿の皮革製品のブランド化推進を支援
自然資源の活用で町おこしにつなげたい
2018年10月16日グローバルネット2018年10月号
北海道・中標津町長 西村 穣(にしむら ゆたか)さん
エゾ鹿による農業、牧畜被害が進む中標津町で「グレートグリーングリッド中標津」というプロジェクトがスタートした。「グリッド」というのは、宇宙からも見えるといわれる格子状の防風林のこと。明治時代から、約3,300mごとに約180mの幅でカラマツが植林され、町内の農地や牧草地を強風や霧から守っている。人が創り、維持してきた、まちを象徴する産業遺産をエゾ鹿の皮革のブランド名として取り込み、町の発展につなげようという狙いだ。
プロジェクトには、中標津町内の牧場主、腕利きのハンター、鹿肉をペットフードとして販売する会社、東京の環境にやさしいエコレザーを生産するなめしの会社、皮革製品まで作り上げるブランドプロデューサーらが参加し、町がバックアップすることになっている。
中標津町は人口が約2万4,000人。人口の倍近い乳牛が飼われている酪農の町だ。ご多分に漏れず、増え過ぎてしまったエゾ鹿による牧草の食害が広がっている。町は多額の予算を使って年間700頭前後のエゾ鹿を駆除しているが、肉は町内の8店舗で売られるようになったものの、毛皮の有効活用はされていない。
「エゾ鹿の肉は大変おいしい。いただいた肉は冷蔵庫に保存して、自分でさばいて食べています」という西村町長は、同町出身で東京農業大学を卒業後は町で農林業に携わる仕事が長かったという。「野生動物の命をいただくのだから、無駄なく利用しなければ」と皮の利用拡大も積極的に支援し、「エゾ鹿の革で作った靴やハンドバック、小物類を来年から中標津空港で販売したい」と中標津ブランドの発信に意欲を見せる。
中標津が初のモデルケースになる取り組みは、東京・墨田区にある皮なめし業の山口産業(株)が中心になって進めている「レザーサーカス」活動の一環。地方と都市を皮革製品の開発で活性化させようという活動は昨年、東京都が主催する世界発信コンペティションで入賞、今年の9月に入賞企業等の発表・展示会が都内で開かれた。西村町長も会場に駆けつけ、「貴重な自然資源でもあるエゾ鹿の皮革を活用することで、町の発展につなげたい」と抱負を語った。63歳。 (H)