フロント/話題と人渡辺 綱男さん(IUCN日本委員会会長)

2018年08月20日グローバルネット2018年8月号

生物多様性基本法施行10年
自然と共生する社会・地域づくりを日本から発信しよう

渡辺 綱男(わたなべ つなお)さん
IUCN 日本委員会会長

生物多様性基本法は2008年に議員立法で成立し、施行された。既存の自然環境関連法を束ねる理念法として、生物多様性という視点を各法律や施策に組み込むことに貢献してきた。渡辺さんは、環境省時代からその策定と施行にも関わってきた。

「目的に明記された『自然と共生する社会の実現』は、手付かずの原生自然を保護するだけでなく、国土全体にわたって人と自然がバランス良く暮らしていくことが欠かせないという思いを表現したもの」と基本法の注目点を挙げた。人と自然が織り成す里山の景観が広がる日本ならではの提案といえる「自然との共生」は、世界が目指す2050年の長期目標(2010年の生物多様性条約COP10で合意)にも盛り込まれた。

2011年3月の東日本大震災を契機に、私たちは自然に対する認識を新たにすることになる。渡辺さんが策定に関わった「生物多様性国家戦略2012-2020」では、「豊かな恵みだけでなく、脅威をもたらす自然との付き合い方・姿勢」を改めて示し、環境省は具体策として三陸復興国立公園の創設を核としたグリーン復興プロジェクトを立ち上げる。そのプロジェクトの一つである「みちのく潮風トレイル」は、青森県八戸市・蕪島から福島県相馬市・松川浦までの太平洋岸南北900㎞を自然歩道でつなごうというもの(2019年3月全ルート開通予定)。地域ごとの特色にあふれるトレイルを目指し、地元の人たちとともに地域の自然や文化だけではなく、震災の痕跡も見つめ直し、それが自然と共生した新たな地域づくりにつながっているという。

基本法の目的達成に向けた今後の課題としては、温暖化や防災・減災、福祉など、持続可能な地域づくりに向けたさまざまな分野との連携や、多様なステークホルダーがそれぞれの持ち味を生かした誰もが主役のパートナーシップを挙げた。さらに、生物多様性の国際目標年である2020年に向けては「2008年の基本法を出発点に、震災やパリ協定、SDGs(国連持続可能な開発目標)など国内外の出来事や動向を受け止めながら進めてきた生物多様性保全の歩みを止めないことが重要」とした上で、「日本から自然と共生した地域づくりの実践例を発信しよう」と訴えた。(希)

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