フロント/話題と人ロシア・ビキン国立公園の関係者(ミハイル・ジジューキンさん、アレクセイ・クドゥリャフツェフさん、ガリーナ・ペトロヴァさん、ナタリア・カンチュガさん)
2018年07月13日グローバルネット2018年7月号
地元の先住民族が参加する公園管理とツーリズムでビキン川流域を未来に残したい
ビキン川流域は、日本列島の真北のロシア極東・沿海地方北部に位置する森林地帯。野生のアムールトラの生息環境保護の観点から、2015年には秋田県とほぼ同面積の「ビキン国立公園」が創設され、地元住民の参加による公園管理の在り方を模索している。リコーなど企業の支援を受けて当フォーラムが展開するプロジェクト「タイガフォーラム」の招きで、アレクセイ所長をはじめとする国立公園スタッフと地元クラスニヤール村の関係者4名が6月中旬に来日、日本の国立公園や世界遺産指定地でのツーリズムの在り方を学ぶため、北海道の知床国立公園や環境省などを訪れた。
この森林地帯はソ連崩壊以降、繰り返し木材伐採の危機に見舞われてきた。92年に露韓合弁企業による伐採がビキン川上流域に迫った際、体を張って反対運動に加わったナタリアさん(前村長、国立公園ツーリズム担当)は「国立公園指定のおかげで伐採の脅威に脅かされることがなくなった」と評価している。
仕事を求めて一度は村を離れてしまった若者が、村に戻ってきたりもし、現村長のガリーナさんは「国立公園指定は私たちウデヘなど先住民族にとってはチャンス」と期待する。国立公園の設置によって114人が新たに雇用されたが、うち70人は地元住民で、ロシア国内でこれほど多くの地元民が雇用されている国立公園の事例はないという。これは同国立公園の設置の目的に、アムールトラをはじめとする「野生生物の保全と回復」だけでなく、「先住民族の伝統的自然利用の支援」が位置付けられていることが背景にある。
さらに、2月にメドベージェフ首相によって承認された「ビキン川流域ツーリズム発展計画」では、先住民族に国立公園の管理に参加してもらうための一つの具体策としてツーリズムが位置付けられている。4人の帰国後に決まったビキン国立公園世界遺産登録のニュースを受け、アレクセイ所長は「知床では生態系の保護とツーリズムの振興のバランスがうまく取れているのが印象深かった。これまで日本の皆さんと約20年にわたり取り組んできたツーリズムをさらに進化させるため、ガイドのトレーニングなどに力を入れていきたい」と今後の抱負を語ってくれた。 (希)