特集/水Do!フォーラム2018報告 海ごみから考える脱使い捨てと水のエシカル消費講演2 ロンドンのワンレス・キャンペーン

2018年05月15日グローバルネット2018年5月号

ロンドン動物学協会(ZSL)海洋プロジェクトマネージャー
フィオナ・シュウェリンさん

近年、海洋ごみの問題は深刻化に歯止めが掛からず、いまや国際社会が緊急に取り組むべき課題の一つとなっています。中でもその多くを占めるプラスチックごみの削減が求められ、ペットボトルはレジ袋とともに対策を取るべき主要品目とされています。本特集では、使い捨て容器入り飲料の利用を減らし水の域産域消を推進している「水Do!ネットワーク」が、今年2 月22 日に東京都内で開催した「水Do!フォーラム2018」での講演と欧州調査の報告、また異なる分野でこの問題に取り組む団体による発表の概要を紹介します。(2018 年2 月22 日、東京都内にて)

 

ロンドン動物学協会(ZSL)は1826年に設立された歴史ある団体です。世界中の動物およびその生息環境の保全の推進・実現などをミッションとし、世界50ヵ国以上のフィールドで、環境保全活動や調査を実施しています。また、ロンドン動物園と、ロンドン近郊のホイップスネイド野生動物園の二つの動物園を運営しており、動物園を通した啓蒙活動も行っています。

海のプラスチック汚染に取り組むProject Ocean

私たちZSLが進めるProject Oceanは、ロンドンの高級デパート、セルフリッジと長年にわたり協働しているプロジェクトです。魚の乱獲や海洋汚染などの問題を解決するため、クリエイティブな方法で、新たな施策について市民に知らせるという活動です(写真)。

セルフリッジの店に掲げられたメッセージ

2015年にはとくにプラスチック汚染の問題に焦点を当て、セルフリッジでは使い捨てペットボトル入りの水の販売をやめ、代わりに水筒の販売を推進しました。店内にリフィルできる水飲み場を設置し、顧客に向けてそれを活用するようキャンペーンを実施した結果、年間40万本のペットボトルの販売が減り、それに対しリフィル可能な水筒の販売は1,780%も増えました。

イギリスでは毎年77億本もの使い捨てペットボトルが消費されていますが、その数は水のペットボトルだけで、他の飲料の本数は含んでいません。容器リサイクルがあまり進んでいないイギリスでは、その半分ぐらいしかリサイクルされず、残りの半分は埋め立て地に運ばれるか、燃やされるか、道端にごみとして転がって最終的には海に流れ込んでしまうのです。

ロンドンを「リフィル可能な水筒を使う都市」に

セルフリッジとのキャンペーンが成功したので、私たちはそのコンセプトを広げ、ロンドンをイギリス初の、または世界の首都で最初の「使い捨てペットボトルを使わず、リフィル可能な水筒を使う都市」にしたいと考え始めました。そこで、2016年に他の幾つかのNGOと協働して、ワンレス・キャンペーンを立ち上げました。ロンドン市民は市内を流れるテムズ川を通して日常的に海とつながっていますが、このキャンペーンは「海に流れるペットボトルを一つでも少なくする」ということを最終目標としています。

ロンドンでは、東京のように安全でおいしい水を水道から得ることができるのに、毎年10億本ものペットボトル飲料水が消費されています。これを止めることができれば、大きな変化を実現することができると私たちは考えています。

私たちは2016年4月から、ボランティアグループの協力の下、テムズ川沿いのペットボトルの数をモニタリングし、これまでに2万3,000本を回収しました。しかし、それは氷山の一角に過ぎず、回収されなかった多くのボトルは川底に沈んでしまったか、海に流れ出てしまったと思われます。

ワンレス・キャンペーンの戦略

私たちは以下の六つのコンセプトを掲げてワンレス・キャンペーンを展開しています。

  • ①使い捨てではなく、リフィル可能な水筒を使うように人々の行動を変えること
  • ②ペットボトル入りの水の販売を止めた場合、ビジネスにどのような影響が出るのか、また、事業を成立させるためにはどのような代替案が考えられるのか、ビジネスモデルを考えること
  • ③リフィル可能な水飲み場がロンドン市内に十分確保できるのか、飲み水のインフラの整備
  • ④飲み水を提供する形(新たなデザイン)の創造
  • ⑤国および自治体レベルにおける政策と法の整備、規制の変更
  • ⑥ペットボトル入りの水に対する社会基準自体の変更

そして、小売業者、観光地、地方自治体、NGOなど多くのセクターの関係者を巻き込んだ形でのネットワーク作りも進めています。

地域と国の政策

私たちは大ロンドン市議会とも協働しています。2017年2月に同市議会の環境委員会が「ボトル飲料水の環境影響に関する調査」を開始、4月には「ボトル飲料水に関する報告書」を発行し、その中に「ペットボトル入りの水の消費を減らす必要性があること」「水道水へのアクセスを改善すること」など、私たちの多くの政策提言が反映されました。さらに、8月にはロンドン市長が「ロンドン市環境戦略」を策定し発表しましたが、その中にも私たちの提言が多く盛り込まれています。

そして11月には、ロンドン市長が考えている政策オプションや政策を伝えるための行動の評価も含めた、ペットボトル入りの水の消費量に関する調査の依頼を受けました。この調査の結果、ボトル飲料水の消費については35~44歳の消費量が最も多く、子供を持つ人の方が子供のいない人に比べて多い、という傾向がわかりました。また、男女比では、ほぼ同程度の消費量であることもわかりました。

国レベルの政策については2017年10月、議会下院の環境監査委員会で、私たちは使い捨てプラスチックボトルとカップに関する調査データを報告しました。それを受けて、「プラスチックボトル:プラスチックの波を押し戻す」と題する報告書が作成され、海洋プラスチックの問題についても私たちの提言が多く盛り込まれることになりました。

その後11月、秋期予算の発表において、使い捨てのプラスチックに対する課税の可能性を調査する費用が予算化されました。今年1月には、環境改善25年計画が発表され、その中にも使い捨てのプラスチックボトルや海洋プラスチックについて触れられています。

今後の予定

今後海洋プラスチックの問題について関心はますます高くなるでしょう。そこで私たちはまず、ロンドン全体で給水スポットを増やす「リフィル・ロンドン」を試験的に実施し、その効果についてモニタリングと評価を行います。そしてワンレス・キャンペーンのネットワークをロンドン全体に広げていきます。

日本の皆さんにも「リフィルの革命」を呼び掛けたいです。使い捨てペットボトル飲料の購入・販売・使用をやめ、リフィルできる水筒を使ってほしい。そして、他の人を巻き込み、行動で示してほしいと思います。

 

フィオナ・シュウェリンさん
ロンドン動物学協会(Zoological Society of London)海洋プロジェクトマネージャー。ロンドン市内で行政、企業、市民との連携により啓発活動を実施、モデル事例を実現するとともに、国連会議などでのロビーイングも展開している。

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