特集/水Do!フォーラム2018報告 海ごみから考える脱使い捨てと水のエシカル消費講演1 海からの警告~レイチェル・カーソンの遺言

2018年05月15日グローバルネット2018年5月号

レイチェル・カーソン日本協会 会長
上遠 恵子さん(かみとお けいこ)

近年、海洋ごみの問題は深刻化に歯止めが掛からず、いまや国際社会が緊急に取り組むべき課題の一つとなっています。中でもその多くを占めるプラスチックごみの削減が求められ、ペットボトルはレジ袋とともに対策を取るべき主要品目とされています。本特集では、使い捨て容器入り飲料の利用を減らし水の域産域消を推進している「水Do!ネットワーク」が、今年2 月22 日に東京都内で開催した「水Do!フォーラム2018」での講演と欧州調査の報告、また異なる分野でこの問題に取り組む団体による発表の概要を紹介します。(2018 年2 月22 日、東京都内にて)

 

近代科学の在り方に疑問を投げ掛けた『沈黙の春』

今、国際的に環境問題が深刻になっていますが、環境問題というと『沈黙の春』が話題になります。その作者であるレイチェル・カーソンは1907年に生まれて1964年に56歳で亡くなりましたが、50数年前に彼女が書いた『沈黙の春』によって、私たちは環境に目を開かされたといえます。

彼女はもともと作家になりたかったのですが、途中で生物学に興味を持つようになり、海洋生物学者になりました。「海の3部作」(『潮風の下で』『われらをめぐる海』『海辺』)を書き、海の成り立ちや海の生き物たちを生き生きと書くネイチャーライターとしてその地位を高めました。

しかし、東西冷戦時代である1950年代、近代科学の台頭により、彼女がそれまで愛していた自然界の生き物たちは絶滅の危機に追いやられ、その生き物たちのうめきが聞こえてきた彼女は次第に考え方を変えていったのです。

1958年、森で蚊を駆除するためにまいた殺虫剤のDDTによってコマドリがたくさん死んでしまったことを知らせる手紙を友人から受け取ったことから、彼女は化学物質による環境汚染について書き始めました。彼女は、東西冷戦や核実験など、環境に対し人間の行う当時の近代科学の在り方に疑問を抱いたと私は思います。『沈黙の春』では、DDTによる環境汚染が生物に与える影響だけでなく、食物連鎖の頂上にいる人間も同じように影響を受けるということが書かれています。また『沈黙の春』の中には「化学物質による汚染は核実験の放射能の汚染と同じように」という表現が30数回も出てきます。

生活を見直し、立ち止まり、地球の環境問題を考える

今、ビーチコーミング(※海岸の漂着物を収集したりすること)などをやってみると、いろいろな物が捨てられて流れ着いていることがわかります。それを見ると、私たちは一体なぜこんな多消費型の生活、そして便利だからとどんどん使い捨てていくような生活になってしまったのか考えなければならない、そして科学文明の在り方を問い直さなければならないと思うのです。ここで立ち止まらなければいけない、そうしなければ自然と共生することも、地球上にいる生き物たちを守ることもできないのではないでしょうか。

レイチェル・カーソンは言っています。「この地球上は生命の糸で織り上げられた美しいネットで覆われている。そのネットの網目の一つひとつにいろいろな生き物がいる。しかし、その網目の一つである人間が科学技術という強大な力を持ってしまったために、その網目にほころびができ、そのほころびは一度開いてしまうと戻らない。だから私たち人間は“地球は人間だけのもの”という考え方を止めなければならない」と。

もし彼女が今、生きていたら何と言うだろう、と時々考えます。きっと「もう立ち止まりなさい。これ以上豊かにならなくてもいいでしょう」と言うのではないでしょうか。私たちは先進国にいるのでこんなに豊かで、恵まれた生活をしていますが、多くの発展途上国の人たちはこの豊かさを手にしていません。ですから、われわれ先進国の目だけで地球環境を考えてしまっては大きな間違いにつながるのではないかと思います。

未来を考えて新しい科学技術の開発を

新しい科学技術がどんどん作られていますが、誰もその終息の仕方はなかなか考えない。例えば原発の問題では、廃棄物は延々とたまる一方です。そのようなことを考えながら、海の汚染を解決しなければならないと思っています。

海にプカプカ浮いているプラスチックの袋やペットボトルばかりでなく、マイクロプラスチックになって海の中に溶け込み、魚の体の中に取り込まれてしまう、そういう海の汚染が広がっています。それに対し、私たちは地球に生きる人間として、傍観者的な形ではなく、自分の力で、今ある英知をまとめて未来のために解決しようとしなければならないと思います。

考えなければならない「未来の世代に対する責任」

レイチェル・カーソンは亡くなる半年前にこんなことも言っています。「私たちが住む世界に汚染を持ち込むという問題の根底には、自分たちの世代だけではなく未来の世代への責任がある。私たちは今、現在生きている人々の肉体的被害についてのみ考えがちである。しかし、まだ生まれていない世代に対する責任がある。現代の私たちが下す決断には、まだ生まれていない世代はまったく意見を差し挟めないのだ。だからこそ私たちに課せられた責任は重大である」。

「未来の世代に対する責任」は私たちが考えなければならないのです。

私は戦争が終わった時に16歳でした。私の青春は戦争で損なわれました。環境汚染の原因の最たるものは戦争です。私は世界の平和を祈りたいと思います。

上遠 恵子さん
レイチェル・カーソン日本協会会長。エッセイスト。訳書にレイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』、『潮風の下で』、『海辺』など。

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