環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ「適応」法制化へ、A-PLATで自治体の対応支援

2018年03月30日グローバルネット2018年3月号

フリーランス
滝川 徹

A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)はご存じだろうか?

地球温暖化に対する適応策への理解を深め、地方自治体などの対応を支援しようと環境省が2016年8月、インターネット上に開設した。Adaptation(適応)-Platformから名付けられ、運営は国立環境研究所(以下、国環研)が行っている。自治体による適応計画策定を努力義務とした気候変動適応法案が今年2月20日に閣議決定されて国会に上程。会期内の成立が見込まれていることからもA-PLATへの期待は高まっている。

じわじわ影響、実情知るのは自治体

温暖化対策には二酸化炭素(CO2)削減を目指す緩和策と影響を回避・最小限に抑える適応策があり、政府は15年11月に「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定した。影響予測を農林水産業や自然災害、生態系など7分野にまとめ、▽高温に耐えるイネや果樹の品種開発▽防災設備の整備と避難を組み合わせた対策、などを打ち出した。この時、適応計画を法制化する動きもあったが、負担を懸念する経済界などの反発から見送られた。一方でイギリス、フランス、韓国などは08~10年に適応計画を含んだ温暖化対策を法制化し、アメリカも15年の大統領令で各政府関係機関が適応計画を策定、など世界の適応策への動きは進んでいる。

気候変動適応法案は、▽国は気候変動適応計画を策定し、進展状況について把握・評価手法を開発▽国環研を気候変動影響と適応に関する情報基盤の中核とする▽自治体による適応計画策定を努力義務とする▽国と自治体などが連携して「広域協議会」を各地に設立、被害軽減の具体策を協議する、といった内容。

南北に長い日本列島は地形や植生、作物などが多様で、気候変動による影響は地域によってさまざま。そうした実情を的確に把握できるのは自治体しかないだろう。しかし、将来予測に基づく具体的な影響評価や適応計画を作成できる自治体はまだ限られている。埼玉県、徳島県、長野県、横浜市などが先進的に取り組む一方、人員も予算も乏しい自治体からは「(適応計画策定が努力義務とされても)何から手をつけたらいいかわからない。専門的知識を持つ職員もいない」との悲鳴が上がっている。そこでA-PLATが先進的な取り組みなどを紹介することで、自治体の取り組みを支援する。

多様な情報、目玉は取り組み実例

A-PLATのトップページには▽気候変動適応とは?▽政府の取組▽全国・都道府県情報▽地方公共団体の適応▽事業者の適応▽個人の適応、の6項目や国内外の適応ニュースコーナーなどがある。中でも読み応えがあるのが「地域の適応策インタビュー」だ。「高水温耐性品種の開発で『鳴門わかめ』ブランドを守る」「『千年サンゴ』の保全を通して地域の未来をつくる」(以上徳島県)、「高温障害から水稲を守る兵庫県の2つの取り組み」など、地域特性を生かした取り組みを紹介。

例えば「『鳴門わかめ』ブランドを守る」では、海水温の上昇で特産の「鳴門わかめ」の生産量がピーク時の4割に減少、色が悪くなるなど品質面にも影響が出ている。このため、徳島県立農林水産総合技術支援センターが全国各地のワカメの“赤ちゃん”を交配させるなど試行錯誤を重ねた結果、高水温にも適応した新品種を開発できたという。

さらに、A-PLATをベースにして、アジア太平洋適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)の構築を目指している。最新の科学的気候リスク情報や適応の知識・優良事例などを提供して、アジア太平洋地域の途上国の適応策を支援する。プロトタイプは昨年11月、ドイツ・ボンで開かれた国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)でお披露目され、20年までに本格稼働する予定だ。

運営するのは国環研の肱岡靖明・地域環境影響評価研究室長を責任者とする事務局。肱岡室長は「地方では気候変動を肌で感じていて、熱量を持った職員が取り組んでいる。A-PLATをさらに充実させ、適応策推進に役立つようにしたい」と話している。

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