特集/WISE FORUM 2015 報告 幸せな未来を創造する ~国産材とビジネス~「今来ている国産材」事例:国産材ビジネスの今と可能性 事例1:企業と地域と人をつなぐスギダラケ倶楽部
2015年12月31日グローバルネット2015年12月号
国産材を使った多面的な事業の現状と可能性について、基調講演と事例報告の概要を特集しました。
パワープレイス株式会社 シニアディレクター・日本全国スギダラケ倶楽部共同設立者
若杉 浩一(わかすぎ こういち)さん
私はオフィス家具などを販売する株式会社内田洋行のインハウスデザイナー※です。経済を担うデザインが、果たして世の中のためになっているのか、社会の資本であるはずのデザインが、ともすれば地域の経済や社会を脅かす一面を持っているのでは、と突然疑問に思い、2004年に日本全国スギダラケ倶楽部を設立しました。
スギは、地域や日本の社会を象徴する日本のソウル(魂)のような気がして、何か新しいデザインができないものかと、ふと思ったところから活動を始めました。倶楽部には現在、全国約1,900名の会員がおり、本部は私の職場で、NPO団体でもなく、基本的に1円の予算もありません。ただ「なんとかしたい」という熱い思いの人たちが集まっている不思議な団体です。
最初は「スギダラケ」なデザインを考えながら、地域と企業が一緒になって地域の素材で新しい価値を生みだすことを目指していました。しかしスギは戦後大量に植林された「厄介もの」とされ、すぐには受け入れてもらえませんでした。その後、活動現場を地域に移し、毎週末いろいろな地域でスギにこだわって活動していき、やがて町づくりにつながるようになりました。
企業が価値を生み出し、社会活動が利益となって還元される
企業による社会的な活動の重要性がよくわかったのが、2008年に竣工した宮崎県日向市の町づくりプロジェクトです。地域のスギを使い、子供たちも巻き込んでワークショップを開くなどしました。
プロジェクトにより地元の駅は収益が上がり、JR九州はスギの車両の特急電車を走らせるようになりました(写真)。当初、プロジェクトに対し消極的だったJR九州の役員も「地域と連携することは、企業が元気になるもう一つの手札である」と言うようになりました。
その後、このプロジェクトは車両だけでなく、駅舎なども木質化するなど、地域と連携しながらモノ作りを進めるダイナミックな活動につながりました。
プロジェクトに関わった皆さんは、会社が儲かる・儲からないにかかわらず、とても元気です。地域が元気になるということは、間接的に企業にお金が返ってくるということに気付いたのです。私もこのプロジェクトにより、スギダラケ倶楽部の活動はやがて企業を巻き込み、企業が価値を生み出し、社会活動が利益として返ってくる、という道筋に気付きました。
奈良県吉野町の中学校では、学習机の足は内田洋行が提供し、天板などの木製部分は吉野産のヒノキを使い、それを生徒が入学時に組み立て、卒業時には天板などを持ち帰るというプロジェクトを実施しました。このモノ作りを通じて、地域の誇りを知り、社会とのつながりが実感できるプロセスも発見できたような気がします。
宮崎空港では手荷物検査場を木質化しましたが、これが建築ではなく、内装制限を受けにくい家具だということで、地域の支援を借りて商品化したのが、「WooD INFILL」です。一般住宅構造材を活用しながら建築内建築の「大きな家具」という商品で、スチール部分とデザインは内田洋行で、木部は全国の木材産地で作る、地域と連携する新しいプロダクトです。
地域には優秀な人材・良質な素材・素晴らしい環境がありますが、「デザイン」「マーケティング」「流通」が欠けています。企業が握り締めているこれらの要素を、仲間たちが協力し合って新しい価値を作り出す、そのデザインというものが、スギダラケ倶楽部にあるような気がします。
新しい価値を創造するデザイン
地域や行政だけではどうしようもない物が、人のつながりの中で新しい価値としてさまざまな目線で世の中に伝えられた時に、それまでなかった価値が噴出してくるような気がします。
物を消費することが中心の経済の裏側にある、「なくなってしまった価値」を取り戻すため、「売り手を応援したいから高くても買いたい」と思わせるような物を作っていくことが大事です。私はそれを「共感資源」と呼んでいます。物だけではなく、物を支える力、社会を一緒に支えていく力などの大きな意味が今後デザインの対象になってくるような気がします。
スギダラケ倶楽部は今後も企業や行政職員、地域の人たちとつながりながら、未来の新しい価値の創造を目指して活動していきます。