シンポジウム報告 気候変動によるリスク―私たちはどう立ち向かうか―(その1)<プレゼンテーション>気候変動を伝えること
2017年11月15日グローバルネット2017年11月号
気象キャスター
井田 寛子(いだ ひろこ)
私がこのシンポジウムに登壇するのは今回で3回目になります。前回、他の登壇者の方や会場の皆さんとの議論の中で、「気候変動を一般の人たちに身近なものとして、自分のものとして受け止めてもらうこと」、そして「リスクだけでなく、ポジティブなメッセージを伝えること」の二つが重要であり、今後の課題でもあるということを再認識しました。
災害から気候変動のリスクを伝える
気候変動を身近なもの、自分のものとして受け止めてもらうため、頻発している気象災害から、気候変動のリスクを伝えようとしています。今年、最も大きな被害が広がったのが、7月に九州北部地方で発生した豪雨の時でした。この場所は過去に何回も災害を繰り返していますが、過去の災害を上回る多くの雨が降るというのが近年の傾向です。また、気温だけではなく海面水温も高くなることで、大量の水蒸気が送り込まれて雨雲が発達し、記録的な大雨になったと分析され、背景に温暖化による影響があるのではないかと感じます。こうした局地的な大雨は近年急激に増えているのです。
情報の伝え手として難しいのは、リスクは伝えなければいけないけれど、「災害につながるほどの多くの雨が降る」と言い過ぎてしまうと、「また言っているけれど、きっとそんなに降らないだろう」と信じてもらえなくなってしまうことです。ですから、予想に従って伝えるにしても、過度に伝えるべきか否か、伝え方のバランスが難しいと感じています。
自然の変化から気候変動のリスクを伝える
テレビでの気象情報の他に、自然の変化から気候変動のリスクを伝えようと、自ら現場にも行っています。
今年初めに、北半球でも最大級のサンゴ礁域といわれる石垣島と西表島の間にある石西礁湖(せきせいしょうこ)のサンゴが7割死滅したというニュースがあり、現場の海に潜って取材してきました。私たちが暮らしている所から遠い所にある海の中で起こっていることは、その場に行かないと目に見えません。私の取材を通して現場を皆さんに見てもらい、「サンゴは海の生態系を維持してくれる大事な生き物」というメッセージを伝えることで、皆さんに自然を守ることの大切さが伝われば良いなと思っています。
一方、地球温暖化コミュニケーターとして、環境省とともに活動もしています。「2100年の未来の天気予報」を制作し、小学校やイベントなどで紹介しています。子供たちにもできるだけわかりやすく、未来のリスクを感じてもらえれば、と思っています。
リスクだけでなくポジティブなメッセージを伝える
地球には太陽光、風力、水力、波力などたくさんの自然の力があって、そのような地球に優しい自然の力を利用しようと呼び掛けています。また、地元の旬の野菜を買ったり、外出するときはマイボトルを携帯したり、また、エアコンの効いている部屋でなく緑の中で呼吸をして、ヨガで体を鍛えるなど、今の地球温暖化に対し、自分が楽しみながら、前向きに取り組んでいることを紹介しています。
世界各国で「気候変動の影響について心配しているか」と尋ねたあるアンケート調査によると、世界全体で8割の人がとても心配していると言うのですが、日本ではその割合はおよそ4割だったそうです。一方、気候変動対策が自分にとってどんなものか、という問いに対し、世界全体ではおよそ6割の人が「生活の質を高めるもの」としているのですが、日本では「生活を脅かすもの」と考えている人がおよそ6割にも上りました。これは、日本が豊かで他国ほどリスクを現実的に捉えていないということ。一方で、気候変動対策というのは何か押さえつけられて我慢しなければいけない、と多くの人が感じていることが背景にあると思います。情報の伝え手として、そのようなマイナスのイメージを変えていけるような努力を続けていきたいです。