シンポジウム報告 気候変動によるリスク―私たちはどう立ち向かうか―(その1)<プレゼンテーション>適応にどう取り組んでいくか~最近の政策動向
2017年11月15日グローバルネット2017年11月号
環境省 地球環境局 研究調査室長
木村 正伸(きむら まさのぶ)さん
気候変動によって、日本国内でもすでにさまざまな影響が起こりつつあります。異常気象によって災害、洪水被害が発生し、短時間強雨の観測回数は明らかに増えています。熱中症の患者数も増加傾向にあり、また、米が白濁するなど、農作物の品質低下などの影響が頻発しています。さらにはサンゴの白化やニホンジカの生息域の拡大、デング熱の媒介生物であるヒトスジシマカの分布の北上など、生態系への影響も見られ始めています。
今後10年間の基本的方向を示す適応計画
そのようなさまざまな影響について、政府は幅広く情報を収集し、学術論文や研究報告などをもとに包括的な形で評価するため、中央環境審議会地球環境部会に専門家による「気候変動影響評価等小委員会」を設置し、2015年3月に「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(気候変動影響評価報告書)」を取りまとめました。そして同年11月、関係省庁との協議を経て、「気候変動の影響への適応計画」(以下、適応計画)が閣議決定されました。まさにこれが日本の現在の適応策の基本的方針となるものです。
IPCCの第5次評価報告書において、温室効果ガスの削減を進めても世界の平均気温は上昇すると予測されており、適応策を進めることが重要です。適応計画では、①政府施策への適応の組み込み②科学的知見の充実③気候リスク情報等の共有と提供を通じた理解と協力の促進④地域での適応の推進⑤国際協力・貢献の推進、の五つを基本戦略としています。
この適応計画は、21世紀末までの長期的な展望を意識しながら、今後約10年の基本的方向を示すものです。しかし、観測、監視、影響の評価を繰り返し、5年程度を目途に見直しを行いながら適応を進めることになっています。
気候変動適応情報プラットフォーム
一方、気候リスク情報、気候変動による影響に関する情報を一般にも広く提供していくことも重要です。そのため昨年8月、国立環境研究所を事務局として、「気候変動適応情報プラットフォーム」を立ち上げました。地図上で、観測された気候の変化や気候変動による影響、複数のモデルによる将来影響予測など、最新のデータを全国・都道府県別で参照することができます。また、適応計画の内容や地方公共団体、民間の適応に向けた取り組みについても紹介しています(図)。
そして、気候リスクの情報について国際的に発信するため、2020年までに「アジア太平洋適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)」の構築も計画しています。AP-PLATの気候リスク情報を活用して、「自然災害に対するインフラ技術」や「GIS技術を活用した営農支援技術」などのアジア太平洋地域への海外展開を促進し、アジア太平洋地域において、日本の民間事業者による気候リスクへの的確な対応や投資の拡大を側面から支援することを目指します。
さらに、今年度から2019年度までの3ヵ年の予定で環境省・農林水産省・国土交通省の連携事業「地域適応コンソーシアム」を始めています。全国6地域で国、都道府県、地域の研究機関などが一堂に会する地域協議会を立ち上げ、適応に関する取り組みの共有と連携を推進していきます。関係する行政機関や研究者の方々とも情報や意識の共有を進め、地域における適応策の立案・実施の推進について、具体的な議論を進め、科学的知見を2020年を目途とする第2次気候変動影響評価に活用していきたいと考えています。