シンポジウム報告 気候変動によるリスク―私たちはどう立ち向かうか―(その1)<プレゼンテーション>気候変動のリスクを低減し管理するために~緩和策、排出量把握の重要性

2017年11月15日グローバルネット2017年11月号

IPCC TFI共同議長
田辺 清人(たなべ きよと)さん

IPCCでは、第1作業部会(自然科学的根拠)、第2作業部会(影響、緩和、脆弱性)、第3作業部会(緩和策)の三つの作業部会と四つ目のグループであるインベントリータスクフォース(TFI)で、気候変動問題の全体をカバーしています。人間がどれくらいCO2や他の温室効果ガスを排出・吸収しているのか把握するため、各国は排出量・吸収量を算定し報告することを義務付けられていますが、TFIはその計算方法を開発・改良し、普及する役目を担っています。

緩和策の重要性

IPCCの第5次評価報告書(AR5)では、「気候システムに対する人間の影響は明瞭」であり、「適応および緩和は、気候変動のリスクを低減し管理するための相互補完的な戦略である」として、適応と緩和の両方について、最善の努力をする必要があるというメッセージを伝えています。

具体的には、①より効率的にエネルギーを活用し②省エネルギーだけでなく、低炭素・脱炭素エネルギーをより多く活用し③森林などの炭素の吸収源を改善し④生活様式や行動を変えてみることによって、エネルギーの少ない生活、あるいは低炭素な社会の実現に貢献することができるでしょう。

緩和策を効果的に実施するためには、AR5では「各主体が各々の関心事を個別に進めていては、効率的な緩和は達成されない」としています。皆が他者との協力を考えながら、温暖化のリスクを下げる努力について考えなければならないということです。そして、多種多様なリスクや不確実性について、個人が考えることにより、国や地方自治体の政策にも影響を与えることができるでしょう。

個人の取り組みにも関係のあるTFIの活動

緩和策を進めるにあたって重要なのは、自分が温室効果ガスをどれだけ出しているのか、なるべく正確に把握することです。

温室効果ガスは、農業や工業、廃棄物処理など、私たち自身に関わるさまざまな場面から排出されています。世界各国が義務として課せられている、その排出量・吸収量の実績を排出減・吸収源ごとに示した目録を「温室効果ガスインベントリー」といいます。

各国が比較可能な形で排出量を計算・報告するためには、各国共通の方法で算定する必要があります。TFIは、そのために必要な各国共通で使える算定方法のガイドラインを作っています。事務局にあたるテクニカルサポートユニットは日本政府が招致し、神奈川県・葉山町にオフィスがあります。

今後、IPCCではいくつかの報告書の発表が予定されていますが、2019年5月には、TFIが作成中の方法論である、温室効果ガス排出量推計方法のガイダンスの改良版が発表される予定です。

TFIが作る排出量の算定方法は必ずしも国だけが使うものではなく、いろいろなレベルで使うことができます。家庭の毎月のCO2排出量や、例えば自動車で旅行した場合の車からのCO2排出量を計算する基礎にもなります。また、個人の温暖化対策への取り組みもTFIの活動と関係しています。ですから、皆さんにはTFIの活動についてもっと知り、興味を持っていただきたいと思います。

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