環境ジャーナリストからのメッセージ ~日本環境ジャーナリストの会のページリニア中央新幹線の現状と、南アルプスの自然・地域への影響

2017年04月15日グローバルネット2017年4月号

ヤマケイ登山総合研究所所長
久保田 賢次

3,000m級の山々が13座も連なる南アルプス。そこにリニア中央新幹線のトンネルが掘られ、工事村も生まれつつあります。自然や地域への影響が懸念されながらも、情報公開や住民への説明が不十分なまま工事が進んでいます。先月末、地元、長野県下伊那郡大鹿村で活動を続けるライターの宗像充さんを講師に迎え、東京にいると見えにくい現状を学ぶ、日本環境ジャーナリストの会の研究会が行われました。

実験段階からさまざまな問題点

宗像さんがこのテーマに取り組んだのは2012年の登山雑誌『岳人』での取材がきっかけでした。現場を歩いてみた際には天気が悪く、川の増水でカメラも流されてしまうという状況だったとのこと。地形の変化が激しい場所だと感じ、山ヤ(注※1山の好きな人。登山家の意味で使われる場合もある。岳人。)の直感で「リニアは無理なんじゃないか」と感じたそうです。

その後、『山と溪谷』誌でのリニア問題のルポ(2014年、2015年)、「南アルプスを生きる」(2016年~)などの連載の取材で知り合った地元の女性と結ばれ、2016年9月から大鹿村に移り住むことになりました。

「明るい未来の」超電導リニアと推進されてきたこの計画ですが、大分県出身の宗像さんは、宮崎県で実験が行われていたころから、さまざまな問題点を感じていたといいます。

新幹線の3.5倍と電力を大量に使う点、超電動磁石で車体を浮かせて進めていく技術は、磁界が切れる現象による実験の失敗もあり、確立したものとはいえず、安全性に不安があること。安全神話や過剰な電力消費の構造が原発と似ていることから、「第二の原発ではないか」と話します。

現状と今後の懸念

それでは、今、現地でどういうことが起こっているのでしょうか。農工業と観光の美しい村、大鹿村は、人口1,000人足らずですが、300年以上の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財にも指定されている地芝居「大鹿歌舞伎」でも知られています。村民のうち200人が移住者だといいます。

また「南アルプスを目指す人の村」でもあります。かつて赤石岳(3,121m)は、南アルプスの中で一番高い山と思われており、日本アルプスの紹介者としても知られるウォルター・ウェストン(注※2 英国人宣教師(1861~1940年)。日本各地の山に登り『日本アルプスの登山と探検』などを著し、日本アルプスなどの山および当時の日本の風習を世界中に紹介した登山家としても知られる)らも、富士山に次ぐ標高の山として登ったそうです。

大鹿村は1961年の梅雨前線豪雨(通称:三六災害)で大きな被害が出たように、災害の多い村としても知られ、地形は全体に脆弱で活断層があり、変動が激しい所です。大鹿村ではまったく本体工事が進んでいないという現状もあるそうです。トンネルの坑口ができる周辺は保安林に指定されており、保安林解除の許可取り消しの異議意見書の提出で、手続きは長くかかるため、1ヵ所の解除だけで1年かかるとすれば、村内8ヵ所で8年かかることになるようです。今年1月に行われた村長選挙の結果は、7対3で推進側の現職の勝利となりましたが、3割の批判票が集まり、賛否は拮抗している状況とのこと。そこには現実の生活不安、土日も含めて大量のダンプが通過することでの騒音など、「静かな環境を求めてきたはずが…」という村民の強い思いがあります。

南アルプスにトンネルができた場合、大井川の水が枯れるという心配は深刻です。JR東海は「毎秒2tの水が減る」と言っているそうですが、「計算の根拠がわからない」と宗像さんは指摘します。イヌワシ、ミゾゴイ、ヤマトイワナなどの希少種も生息している地域です。登山者の視点からは、華麗な花畑で知られる荒川岳の花畑など、上部に現れるであろう10年後、100年後の長期的変化についても懸念を示しました。

最後に宗像さんは「一日伸ばせば一日失敗が早まる」という点を強調しました。民間企業の事業なのに3兆円という多額の公的資金を導入し、不動産取得税は免除、無担保で財政投融資の実施が昨年決まった現状の中で、高齢化率全国10位以内の大鹿村には必要のないもの。顔の見える関係の構築が大切で、「いらない」、「必要ない」、「できても乗らない」と、皆さんにちゃんと主張してほしいと結びました。

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