21世紀の新環境政策論 ~人間と地球のための持続可能な経済とは第20回/エネルギーの使い方はどのように変わっていくべきか
2017年03月15日グローバルネット2017年3月号
千葉大学教授
倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)
これからの回では、経済社会の持続可能性を確保するためにエネルギー、ものづくり、まちづくりがそれぞれどのように変わっていくべきか、経済運営はどのように変わっていくべきかについて、まとめていきます。今回は、エネルギーの使い方について考えます。
ムダが大きい集中的エネルギー供給構造
現在のエネルギー供給は、化石燃料に依存する集中的な構造となっています。しかし、この構造は、供給量あたりの廃熱の発生量や温室効果ガスの発生量が大きく、効率的なエネルギー供給構造とはいえません。
下図を見てください。1975年度、1992年度、1997年度の3時点の日本のエネルギーフローが掲載されています。この図の一番左が一次エネルギー投入の比率となります。一次エネルギー投入は発電用と非発電用(燃料用)のいずれかに用いられます。発電用比率は、75年度は27.5%でしたが、97年度は41.7%に増えています。そして、電気と燃料は、民生、運輸、産業の各部門に投入されます。
さて、それぞれの過程で有効に使われないエネルギー投入が出てきます。これが廃熱となります。経済全体での廃熱比率は、図では「損失」として記載されています。75年度の損失比率(63%)よりも97年度の損失比率(65.8%)の方が大きくなっています。
この主な原因が電化です。各部門における廃熱比率は下表を見てください。発電部門の廃熱比率は75年度から97年度にかけて65%程度を推移しています。非発電用(燃料用)部門での効率改善が、電化の進展による廃熱増加で相殺されていることが読み取れます。
まず廃熱の徹底的な削減が必要
まず、行うべきことは廃熱の徹底的な削減です。これは、図における有用エネルギーを我慢することではありません。すでに廃熱削減の取り組みはさまざまな部門で進められています。
発電の場面においては、コンバインドサイクル発電といって、ガスタービンを回した余熱で蒸気タービンを回して発電効率を上昇させる技術が使われるようになっています。たとえば2009年に運転開始した大阪ガス泉北天然ガス発電所ではこの技術を用いて、従来の技術では40%程度だった発電効率を57%に向上させています。なお、石炭火力でも「石炭ガス化複合発電(IGCC)」という類似技術がありますが、発電量あたりの二酸化炭素排出量は、IGCCよりも、従来型の天然ガス火力の方が少ないことを認識すべきです。
集中的に発電する場合、最新技術でも40%は廃熱になる上、送電時に5%程度失われるため、どうしても効率は悪くなります。この点を解決する技術が需要地に近いところで電気と熱を同時に供給するコジェネレーション(熱電併給、以下コジェネ)技術です。コジェネで生まれる熱を有効に活用できれば、エネルギー効率は75~80%に向上するといわれています。
コジェネには、日本の都市に熱導管が敷設されていないという大きな障害があります。コジェネの熱を単独の施設で使い切ることは通常難しいため、ホテル、病院など熱需要の大きな施設を結びつつ、地域で熱供給を行う仕組みをまちづくりの中で計画的に進める必要があります。このようにコジェネによる熱とエネルギーの供給は、街区単位の取り組みになります。
なお、2012年に作成された「革新的エネルギー・環境戦略」では、2030年にコジェネで2,500万kWの設備容量を確保するという目標が掲げられていました。これは原発25基分に相当します。コジェネは計画から運転開始まで1年程度といわれていますので、迅速な整備も可能です。
さて、廃熱の防止という観点では、建物単位の取り組みも重要となります。2030年にゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)を新築建物では標準にするという目標が官民で掲げられています。大成建設の3階建てZEB実証棟では、75%を省エネし、残りの25%分を太陽光発電で賄っています。
また、ゼロ・エネルギー・ハウジング(ZEH)は既存の技術で実現可能です。2009年建築の2階建てモデルハウス「GREENY岐阜」では、9.7kWhの蓄電池と6.3kWの太陽光発電でZEH化を実現しました。
今年4月に全面施行される「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」では、床面積2,000m2以上の非住宅の建物に省エネ基準適合義務を、床面積300m2以上の建築物に届出義務を掛けています。今後、再エネ設備設置義務を追加するとともに、その下限を引き下げることが必要と考えます。さらに、廃熱の発生状況が記録され公開されるような仕組み、それに課税などを通じて値付けされる仕組みまで視野に入れた政策展開が求められます。
変動する再生可能エネルギーを活用する
廃熱の削減とともに、化石燃料から再生可能エネルギーへエネルギー源を転換することも必要です。再生可能エネルギー源の課題は、量が足りないことではありません。狭い国土に密度高く居住している日本であっても、消費量以上の太陽エネルギーが降り注いでいます。日本は、地熱資源は世界第3位、降水量は世界第6位です。国土の67%を森林で覆われており木質バイオマス資源も豊かです。周囲を海で囲まれているため、洋上の安定的な風力や波力・潮流力といった海洋エネルギーも活用可能です。
再生可能エネルギーの課題は、太陽光や風力といった変動する再生可能エネルギーを安定的に供給できるかどうかという点にあります。このため、エネルギーを融通することや、エネルギーをためておくことが求められます。また、自然の条件にエネルギー需要側を合わせていくことも必要です。
エネルギーの融通については、街区単位で需要パターンの異なる需要家をつないで地域エネルギー供給を行うこと、電力会社間の連系線を強化して、より広域的にエネルギーを融通し合うことが必要です。
蓄エネルギーについては、蓄電池のほか、ケミカルヒートポンプの技術を活用した蓄熱システムの普及、水素などの物質でためておく技術の開発などさまざまな方法を組み合わせていくことが必要となります。
自然の条件にエネルギー需要を合わせていくためには、エネルギー需給が逼迫する場合に高くするなど、気象条件に応じて電気料金を変動させるダイナミックプライシングの導入が効果的でしょう。これは2020年代の初頭に全世帯にスマートメーターが導入される状況になれば十分実現可能となります。
分散的エネルギー供給が廃熱の削減に寄与すると述べましたが、再生可能エネルギーはまさに分散的エネルギー源といえます。廃熱削減と再エネ活用のため、大規模発電設備から集中的にエネルギー供給を行う社会から、気象条件に応じて地域分散的にエネルギー供給を行う社会に転換していく必要があります。