日本の未来に魚はあるか?~持続可能な水産資源管理に向けて第4回 サバをめぐる光と影ノルウェーと日本のサバは、なぜこんなにも違うのか?
2017年03月15日グローバルネット2017年3月号
漁業ジャーナリスト
片野 歩(かたの あゆむ)
ノルウェーサバと日本の国産サバの違い
脂の乗りと味の違い
食卓だけでなく、お弁当のおかずや、定食でもすっかり定番のノルウェーサバ。どれも脂が乗っています。一方で、国産サバは、一年中鮮魚売り場に並んでいるものの、食べるとパサパサして脂が乗っていないものもあります。
おいしくないサバを出せば、お客さんが減ってしまいます。そこで国内で捕れるサバではなく、安定しておいしい、ノルウェーから運ばれてくるサバを選ぶ加工業者は少なくありません。
日本で最もたくさんのサバが水揚げされる千葉県銚子の港。しかしながら、地元で水揚げされているサバの主な行き先は、アフリカや東南アジア、またはクロマグロなどの養殖の餌といったように、日本の食卓に上ることは少なくなっています。
価格の違い
魚価は、国産の方が安く、ノルウェー産の方が高くなっています。地元で揚がるサバは、輸出や養殖の餌用に使われることが多く、加工用に使うサバは高い価格ではるかノルウェーから輸入されています。福井県のヘシコ※のような名産品や、浜焼きのサバも日本海で揚がったものではなく、ノルウェー産が主体です。
価格で比較すると、その違いがよくわかります。国際マーケットは、品質の違いに正直です。2016年に日本が輸入したノルウェーサバの輸入価格はキロ190円。一方で、日本から輸出されたサバの価格はキロ85円。実に、半額以下の販売価格で輸出しているのです。価格が示す通り、日本のサバの評価は低く、価格が安いというのが唯一の取りえというありさまです。2016年の輸出数量は21万tと過去最高でしたが、輸出金額は180億円と前年の19万tの輸出金額178億円とほとんど変わりません。
食用に向かう比率の違い
日本のサバは食用以外の餌向けが約3割もあります。一方で、ノルウェーで水揚げされるサバは99%が食用です。アトランティックサーモンをはじめ、魚の養殖にはフィッシュミール(魚粉)が必要ですが、ノルウェーをはじめとする北欧産のフィッシュミールに使われているのは、食用にされていないイカナゴや、卵を取り出した後のシシャモや、フィレ加工した後のニシンの頭、骨、内臓などです。サバのように、大きくなれば価値が高くなるような魚をフィッシュミールにすることはありません。
漁業者の違い
日本の漁業の現状を語るとき、後継者難の問題がすぐ出てきます。漁業者の平均年齢は60歳で高齢化が進んでいます。若者は仕事を求めて都会に出ていくので、昔は漁業で栄えていた漁村の衰退が止まりません。漁業は「捕れない、安い、売れない」の三重苦になってしまっているのが偽らざる事実かと思います。
一方で、ノルウェーでは、後継者問題の話を聞いたことがありません。若い人たちが漁師になっていきます。漁業者の年収は、一般の職業より高いといわれており、それは実際に現場で漁業者に会うとわかります。また、外国人に頼るのではなく、ノルウェー人が漁業者になっていきます。サバをはじめ、魚が中長期的に捕れ続けるので、漁業者は豊かです。地方に拠点を持ち、もうかったお金で、都会や海外に遊びに行く、そんな生活ができるので地方に活気があります。
科学的根拠に基づく資源管理
ノルウェーと日本のサバでは、なぜこのような違いが起きているのか。それは、科学的根拠に基づく厳格な資源管理を行っているかどうかということに尽きます。日本の場合は、漁業者の自主的管理というやり方がほとんどです。このやり方では、漁業者は自分の漁を制限されるのは嫌なので、管理したとしても、どうしてもたくさん捕ってしまう甘いルールになってしまいます。
そして、乱獲で魚が減少してしまい、魚が減ると単価が上昇します。漁業者は経営が厳しくなるので、魚が減ってもできるだけ捕ろうとします。そして、成長する前の魚も捕ってしまうために、価値のない小型の魚が多くなり、さらに水揚げ数量が減るという悪循環を繰り返してしまいます。こうして、ニシン、ハタハタ、ホッケなど、さまざまな魚の資源をつぶしてきました。そして、これらを「環境が変化した」、最近では「中国などの外国が悪い」と責任転嫁をしています。これらの影響がないとは言いませんが、あくまでも主因は、日本の乱獲なのです。
ノルウェーではあり得ない日本の漁獲枠設定
ノルウェーサバは、厳格な漁獲枠(TAC)で資源が管理されています。それがさらに漁船ごとに漁獲枠が割り当てられ、漁業者は漁獲枠に応じた漁獲量(ほぼ100%)を捕獲しています。一方日本でも、1996年に批准した国連海洋法に基づき、サバにもTACを設定しています。しかし、設定されている漁獲枠は、実際の漁獲量より大きく、消化率は6割程度。ほとんど機能しておらず、資源管理の効果は今のやり方では期待できません。
2012年に34年ぶりに北海道の道東沖に現れたサバの魚群は、2011年の東日本大震災で漁獲されなかった生き残りが北上した群れと考えられますが、せっかくのサバ資源を、同漁場での漁獲許可を増やすことで乱獲が進んでしまって水揚げが再び減少に転じ、震災後に見られた貴重な中・大型のサバはほとんど捕り尽くしてしまったようです。日本のサバの漁獲枠設定方法は、ノルウェーでは絶対やらないやり方です。
日本ではローソクと呼ばれる、日本での食用には向かない3歳未満の未成魚もたくさん捕っています。一方で、ノルウェーでは3歳未満のサバはほぼ漁獲されない仕組みになっています。日本のサバもノルウェーのサバも2歳で半分が成魚となり、3歳で全部成魚となります。日本の場合は見つけたら容赦なく捕るだけなのでサバが育ちません。
それでは、ノルウェーでは小さいサバをどのようにして捕らないようにしているのでしょうか。30cm以下のサバは、食用にしない限り捕らないというルールがあります。しかし、効果を発揮しているのは、このルールではありません。それは、船ごとに漁獲できるサバの漁を決める制度があるからです。その量は、比率なので、資源状態により毎年変化します。
2017年のノルウェーの大型巻き網船の漁獲枠は1隻当たり約2,000tです。本気で捕ろうと思えば、その数倍は簡単に捕れますが、資源を持続的に管理するために、かなり抑えられた漁獲枠になっています。このため、漁業者は、たくさん捕ることではなく、いかにして水揚げ金額を上げるかを考えています。
サバの群れは、大きな魚の群れもあれば小さな魚の群れもあります。大物が集まるポイントもあれば小物のポイントもあるのです。漁船は漁獲枠が決まっているので、必然的に大きな魚を狙うようになります。巻き網で巻いたサバは生きています。大きさを測って満足のいく大きさでなければ、生きたまま逃がして、別の群れを探すこともしています。また、漁場や捕った魚の大きさをネットで公開して情報を共有しているので、大きなサバを探しやすい仕組みもできています。漁場を隠すようなやり方は、北欧では過去のことなのです。
資源を将来に残すため手遅れになる前に管理を
日本でも同じように、科学的根拠に基づき、サバの漁獲枠を決めて、それを漁船ごとに割り当てて、罰則規定も設けて管理すれば、手遅れになる前であれば、資源は回復していきます。
マサバの産卵は主に4~6月。2011年の震災後、放射性物質などの問題で、その年の産卵期のサバはほとんど漁獲されませんでしたが、その時、卵から産まれた稚魚が2013年に親(約半分が成熟)として産卵し、その時に産まれたマサバが三陸から銚子にかけて、卓越年級群としてたくさん泳いでいます。この貴重な資源を、再び乱獲してつぶしてしまうのか、それともしっかり管理して将来にサバを残して、食べ続けられるようにしていくのか。ノルウェーのように成功していく方法はあるのです。