フォーラム随想肥満防止にもなるウォームビズ
2017年02月15日グローバルネット2017年2月号
自然環境研究センター理事長・元国立環境研究所理事長
大塚 柳太郎
パリ協定が発効し、温室効果ガスの排出抑制への動きが本格化してきた。さまざまな技術開発の必要性とともに、世界中の人びとが意識や行動を変革することも求められている。
二酸化炭素の排出削減を目指し、環境省が国民に呼び掛けているクールビズとウォームビズは、今後も推し進めたい取り組みである。その眼目は室温を適度に保つことで、クールビズでは夏期の冷房を28度に、ウォームビズでは冬期の暖房を20度に設定することを推奨している。
クールビズは、初日の5月1日に環境省職員が軽装で働く様子がテレビで放映されることなどもあり、国民の認知度は90%を超えている。それに比べると、ウォームビズの認知度は低いが、二酸化炭素排出削減への貢献度は、ウォームビズがクールビズより4倍以上も高く、寒さへの対応の方がより重要なことを示している。
人間の寒さへの対応について、私が驚かされたのは、パプアニューギニアの標高1500mを超える高地で、住民の環境利用を調査していたときのことである。多くの方は、パプアニューギニアというと「熱帯」を連想されるであろう。確かにここも赤道直下の南緯7度に位置するが、気温は年間を通して、最高気温が22~27度、最低気温が10~16度であった。
私にとっては暑さより寒さが問題で、長袖シャツと長ズボンを着ていても朝晩の寒さは厳しかった。ところが、住民は、男性が半袖シャツと半ズボン、女性が半袖シャツとスカートを身に着けるだけで、寒さを意に介さないのである。電気も水道もない環境で、彼らは自らの身体を存分に使いエネルギッシュに生活していた。
私が彼らに抱いた驚きは、後に栄養生理学者のS氏の話を聞き納得することができた。
ヒトは低温にさらされると、脳や内臓の体温低下を防ぐために、体内で主に脂肪を燃焼し熱を産生する。この機構は、ヒトを含むほ乳類には命綱であり、燃焼させる脂肪は脂肪細胞に蓄えられている。ただし、脂肪を蓄えるのは体内に広く分布する白色脂肪細胞で、脂肪を燃焼させる褐色脂肪細胞は、わずかな量が肩甲骨や首の周辺に局在するだけなのである。
現代人の大敵となった肥満の主な原因は、白色脂肪細胞での脂肪の過剰蓄積である。一方の褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞から脂肪を取り込み燃焼させるので肥満を防止する。
褐色脂肪細胞は、ヒトに限らず多くのほ乳類で、新生児の体重の0・5~3%ほど含まれ、加齢とともに減っていく。S氏が私に強調したのは、最近、褐色脂肪細胞の代謝活性の測定法が進歩し、高齢者にも一定量の褐色脂肪細胞の存在が確かめられたことである。この発見以降、褐色脂肪細胞の活性の低下をいかに遅らせるかが課題になったとも話されていた。
褐色脂肪細胞の活性を高める方法はいくつかある。この細胞が存在する部位の体表面などを直接冷やすことや、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを摂取することなども挙げられるが、もっとスマートで健康的な方法がある。
その一つは、筋力トレーニングやジョギングを行い、基礎代謝(エネルギー消費)を高めることである。また、日常生活で歩行を好み駅の階段を昇降するなど身体をよく使う習慣を持つ人は、そうでない人より基礎代謝が高い傾向にあることも知られている。
もう一つの方法が、過度に高くない温度下で過ごす時間を長くすることである。たとえば、冬期に室温19度で2時間過ごすと、褐色脂肪細胞が活性化することが確かめられている。思い返すと、私が驚いたパプアニューギニア高地の住民は、そのような環境で毎日を過ごしていたのである。
ウォームビズで推奨されているように、冬期にも20度くらいの室温で過ごすことは、地球温暖化の抑制に貢献するとともに、肥満の防止にも有効なのである。