特集/持続可能な国際社会のために~持続可能な開発目標(SDGs)をめぐる最新動向と今後の実施に向けてSDGsの実施に向けた市民社会の参画と今後
2016年01月15日グローバルネット2016年1月号
NGOネットワーク「動く→動かす」(GCAPジャパン)代表
一般財団法人CSOネットワーク代表理事、認定特定非営利活動法人日本NPOセンター常務理事
今田 克司(いまた かつじ)
※ 本稿の一部は、筆者が雑誌『国際開発研究』第23巻第2号(国際開発学会 2014年11月)に投稿した「ポスト2015年開発枠組み策定におけるグローバルなCSOの主張と参加」の一部分を加筆・修正したものです。
「私たちが求める世界」
「私たちが求める世界(The World We Want)」とは、国連が2015年以降(ポスト2015)の開発アジェンダのコンサルテーションをするために立ち上げたオンラインのポータルサイトの名称だが、これはそもそも後述する貧困をなくすためのグローバルコール(GCAP)が、2011年の年次報告書で使ったタイトルである。
この例に端的に表れているように、昨今の国際社会の主張は、グローバルなレベルで活動する市民社会組織(CSO)がここ10年ぐらい繰り広げてきた主張に近づいてきている。それを一言で言い表せば「世界の変革」となろう。持続可能な開発目標(SDGs)の最終文書のタイトルが「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」であることから見ても、「変革」を言い続けてきたCSOの主張が国際社会の主張として成立していることがわかる。
ポスト2015プロセスの財産
2013年2月、筆者は国際市民社会ネットワークCIVICUSのスタッフとして、国連開発計画(UNDP)と国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が主催したポスト2015のガバナンスに関するテーマ別コンサルテーション会議に参加し、意見を述べた。これを含め、ポスト2015の策定プロセスでは、多種多様な意見聴取の機会が持たれたが、その大部分は途上国の市民社会との協議に費やされた。
本稿でまず強調しておきたいことが、こういった広範なコンサルテーションがSDGsの財産になっているという点、そしてそれが「世界の変革」という合意文書に結実しているという点である。15年前のミレニアム開発目標(MDGs)の時と比べて、国際的な合意事項を形成するプロセスの常識は様変わりした。すなわち、国際合意は一部の先進国の主導で作られていた時代から、より途上国の主体性を強調する時代、そしてさらに、そういった国際合意の影響を最終的に受ける市民一人ひとりの主体性を強調する時代へと移っているのである。
もちろん、このプロセスは一直線ではない。国連を主戦場とした先進国と途上国の意見の対立はあらゆる会議で見られるし、途上国内部での市民の主体的な関わりにはさまざまな形で制限が加えられているのが現状である。加えて、合意プロセスにおける市民社会の関与の機会は増大しているものの、アクセスは増えても影響力は増えていないと指摘する声もよく聞かれる。
されど、15年で時代が様変わりしたことは間違いない。そこで、ポスト2015策定プロセスに関与したCSOのネットワークについて、いくつか具体的に取り上げてみる。
Beyond 2015とGCAP
CSOによるポスト2015への取り組みについて叙述する際、忘れてはならない報告書が一つある。英国のCSO、CAFODが発表した「100人の声(One Hundred Voices)」だ。これは、CAFODがサセックス大学の開発学研究所 (IDS)との共同研究の成果としてまとめたもので、「MDGsの後に来るべきものについての南の視点」という副題がついている。2010年、MDGsの最終年まであと5年というタイミングにおいて、CAFODは「その後」の議論では途上国の市民の声を前面に出すべきと考え、27の途上国から104名のCSO関係者の声を集めて、翌年3月にこの報告書を発表した。
これがきっかけになり、ポスト2015アジェンダに対してCSOの新たなネットワークが立ち上がった。これが Beyond 2015 である。当初は先進国のCSO主導とのそしりを受けていたが、ポスト2015にターゲットを絞った活動を積極的に展開することで、CSOの間で徐々に信頼を勝ち得ていったほか、ニューヨークで活動するBeyond 2015の国連ワーキンググループが国連の動きをCSOに伝える有用なチャンネルとしての地位を確立していった。
一方、2005年の世界社会フォーラムで正式に始動したGCAPは、同年の英国のグレンイーグルズG8サミットを主戦場にした強力なキャンペーンで世界規模のネットワークとなり、2006年以降は途上国中心かつ貧困との闘いを主題に活動するネットワークとして、国連などの国際社会とのダイアログでも存在感を示していった。ポスト2015プロセスにおいても、Beyond 2015とともに積極的なアドボカシーを展開した。
Beyond 2015とGCAPに加え、国別NGOプラットフォームの国際フォーラム(通称IFP)は、2013年に共同プロジェクトを立ち上げ、ポスト2015開発アジェンダに関する途上国39ヵ国の市民社会の声を一つの報告書にまとめた。これは、コンサルテーションの幅の広さにおいて一定の正統性を持つものとして評価されるようになった。なお、この報告書で取り上げられているポスト2015における主要テーマは、平等、環境の持続性、人権、貧困と飢餓の撲滅、説明責任と参加の5項目である。
リオ+20のプロセス
ポスト2015策定プロセスの最大の特徴の一つに、ポストMDGs(開発の枠組み)と、ポストリオ+20(環境または持続可能性の枠組み)の統合があったことは知られているが、市民社会の関与においても、二つのプロセスは別個に存在していた。2012年に、国連持続可能な開発会議がリオデジャネイロで開催され、リオ+20と呼ばれるようになったが、1992年の地球サミット以降、市民社会とのコンサルテーションは持続可能性コミッション(CSD)を母体に行われてきた。CSDで導入されたのが、メジャーグループ制と呼ばれるマルチステークホルダーのやり方で、そこにはビジネスと産業、子供と若者、農民、先住民、自治体、NGO、科学・技術者コミュニティ、女性、労働者と労働組合の九つのメジャーグループが存在した。
ポストMDGsの動きとポストリオ+20の動きが統合されてポスト2015アジェンダ策定プロセスへと進化していく中で、CSO側の主張にも収れんの動きが見られた。とくにポストリオ+20の流れから出てきた概念の一つに、「地球システムの境界(Planetary Boundaries)」がある。ポストMDGsにおける市民社会の主張で強調されていた人権の擁護や貧困と飢餓の撲滅に加え、成長言説に異を唱えることによって、「世界の変革を」のメッセージが前面に出ることになる。「地球システムの境界」議論は、地球が有限な土地や資源によって成り立っていることを出発点とし、気候変動、安全な水などの議論を開発と環境の結節点として使うことで、グローバルなCSOの主張がより世界の現実に立脚されたものへと洗練されていったのである。
今後に向けて ~SDGs国内実施と市民社会
SDGsの「普遍性」、すなわちこの新しい枠組みが途上国だけでなく先進国も対象としていることはすでに多くの関係者が注目している。日本のNPO・NGO関係者の間でも、この点を活用して、国レベル、地域レベルでSDGsを参考にした目標や指標づくりを進める試みも始まりつつある。
市民社会は、SDGs策定プロセスで得た財産を基に、SDGsの実施に関しても、国単位やグローバルな場で監視や提言を続けていく。すでに2015年9月の国連持続可能な開発サミットのサイドイベントで、SDGs実施段階でのCSOのネットワークの在り方に関する協議がなされ、九つのメジャーグループ制度の見直しも進行中である。「世界の変革」に実効性を持たせるため、今後も市民社会の関与は続いていく。