特集/持続可能な国際社会のために~持続可能な開発目標(SDGs)をめぐる最新動向と今後の実施に向けて日本における持続可能な地域づくり~地域再生戦略におけるSDGsの実現を目指して

2016年01月15日グローバルネット2016年1月号

昨年9月の国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。これは、2030年までに世界から貧困をなくし、持続可能な未来を追求するという17項目から成る新しい開発目標です。先進国を含む全ての国を対象としたグローバルな目標です。本特集では、SDGsの概要を紹介し、地方自治体、市民セクター、ビジネスセクターでのSDGs達成に向けた取り組みや課題などについて考えます。


NPO法人環境自治体会議環境政策研究所所長
中口 毅博(なかぐち たかひろ)

ローカルアジェンダとは、持続可能な発展を目指す取り組みを地域レベルで進めるための課題や将来像の設定、行動メニューを提示したものである。1992年の地球サミットにおいて、アジェンダ21の地域版として「ローカルアジェンダ21」を作成することが合意された。これを受け、国際環境自治体協議会(ICLEI)がイニシアチブを取り、策定を推奨した。それ以降、日本を含む世界各地の都市でローカルアジェンダ21が策定された。

世界の傾向をみると、欧州では、北欧やラテン系諸国でローカルアジェンダ21の導入が進んだ。日本でも1990年代後半に300余りの自治体でローカルアジェンダ的なものが作られたが、環境省が窓口になったため、環境分野の行動計画という位置付けになってしまい、現在はほとんどの自治体で消え去っており、今なお活発に活動しているのは大阪府豊中市と京都市ぐらいである。欧州では担当部局が環境部局から首長直轄になるように主流化していき、土地利用や交通といった都市再生に焦点が当てられるようになったが、日本では環境部局でできることや市民向けの環境配慮行動指針作成などに矮小化されていった。

しかし、成果もある。京都市の「京のアジェンダ」や豊中市の「とよなかアジェンダ21」など、ローカルアジェンダに位置付けられた事業やそこから派生した取り組みの実施を通じて、市民主導のプロジェクトや組織設立のノウハウが、他の計画や活動にも引き継がれているという。

アジェンダの再興は可能か

持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択された今、この達成のために市民セクターの関与した世界的ネットワークが始動しつつある。そんな中で、日本において、過去の失敗を踏まえた「ローカルアジェンダ2030」(編集部注:2016年1月特集;SDGsの概要と実施に向けた課題をご参照下さい)の策定はこの先進むのであろうか?

筆者は、SDGsやローカルアジェンダの精神は、地域創生、地方再生の精神と重なる部分が多いと考える。多くの首長が地域創生や地方再生には関心を持っている状況を踏まえれば、必ずしも過去のローカルアジェンダを再興する必要はないと考える。つまり、ローカルアジェンダの策定プロセスの経験を地域創生の戦略に生かせれば良いのであって、結果としてローカルアジェンダになっていれば良いと考える。

地域の創生戦略にSDGsのターゲットを組み込む

人口減少や少子高齢化、地域産業・コミュニティの衰退やグローバル化に対応するには、地域の創生戦略に基づく実践が有効と考える。地域の創生戦略に求められる要件として、次の六つが挙げられる。①策定過程においてパブコメなどの形式的な参加ではなく、白紙段階から実質的な住民参加で検討すること②行政だけが実施主体である「行政計画」ではなく、住民や企業などのマルチステークホルダーが主体的に実施する「社会計画」であること③単なる分野別施策の列挙ではなく、持続可能な発展を目指す政策になっていること④戦略目標を指標を用いて定量的に設定すること⑤民間主体・コミュニティ主体の推進体制を作ること⑥進行管理において地域住民を含む第三者による持続可能性の側面からの評価を取り入れること、である。政府が「地方創生総合戦略」を全国展開している今こそ、自治体の政策にSDGsを組み込んだ形で持続可能な地域づくりを進める好機である。

しかし前述のように、日本型のローカルアジェンダは、環境分野に特化しており、そのままでは、SDGsと結びつけにくい。そこで市町村単位で地域の創生戦略(政府の言う「地方創生総合戦略」)にSDGsを導入することを推奨したい。でき得れば、総合計画を持続可能な地域づくり計画としてリニューアルしていくのがベストと考える。

表にSDGsの内容と地方創生総合戦略の政策パッケージの対応関係を示した。地域創生戦略にはターゲット(目標・指標)が必要であり、その表現手段としてSDGsのターゲットを用いることができる。また、SDGsの達成を目指す取り組みの実施で得た経験や技術、育った人材は、途上国への技術移転や人的援助、あるいは研修生の受け入れなどに活用でき、それ自体が地域創生の目玉になり得るであろう。

SDGs の内容と地方創生総合戦略の政策パッケージの対応(一部抜粋)
SDGsのターゲット 政府の地方創生総合戦略の施策
分類
内容
分類
内容
2.2 5 歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025 年までに達成するなど、2030 年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。 321 「子育て世代包括支援センター」の整備、周産期医療の確保等
2.3 2030 年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。 132 農林水産業の成長産業化(需要フロンティア拡大、バリューチェーン構築、生産現場強化)
2.a 開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。 132 農林水産業の成長産業化(需要フロンティア拡大、バリューチェーン構築、生産現場強化)
7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。 135 分散型エネルギーの推進
7.a 2030 年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率及び先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究及び技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。 135 分散型エネルギーの推進
9.1 すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する。 442 インフラの戦略的な維持管理・更新等の推進
9.3 特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸付などの金融サービスやバリューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する。 124 産業・金融一体となった総合支援体制の整備
9.4 2030 年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う。 121 包括的創業支援(創業による新たなビジネスの創造や第二創業等の支援、大企業を含むベンチャー創造協議会の活用、ベンチャー企業とのネットワーク形成、個人の起業の推進、官公需への新規中小企業者の参入促進)
9.5 2030 年までにイノベーションを促進させることや100 万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとするすべての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。 121 包括的創業支援(創業による新たなビジネスの創造や第二創業等の支援、大企業を含むベンチャー創造協議会の活用、ベンチャー企業とのネットワーク形成、個人の起業の推進、官公需への新規中小企業者の参入促進)
9.a アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する。 442 インフラの戦略的な維持管理・更新等の推進
9.b 産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する。 131 サービス産業の活性化・付加価値向上(サービスの優良事例の抽出・横展開、地域の大学等におけるサービス経営人材の育成、ヘルスケア産業の創出、IT・ロボットの導入促進等)
9.c 後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020 年までに普遍的かつ安価なインターネット・アクセスを提供できるよう図る。 151 ICT の利活用による地域の活性化
11.1 2030 年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 411 「小さな拠点」(多世代交流・多機能型拠点)の形成
11.2 2030 年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。 421 都市のコンパクト化と周辺等の交通ネットワーク形成
11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。 134 地域の歴史・町並み・文化・芸術・スポーツ等による地域活性化
11.b 2020 年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030 に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。 461 消防団等の充実強化・ICT 利活用による、住民主体の地域防災の充実
12.3 2030 年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。 132 農林水産業の成長産業化(需要フロンティア拡大、バリューチェーン構築、生産現場強化)
12.b 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。 133 観光地域づくり、ローカル版クールジャパンの推進(「広域観光周遊ルート」の形成・発信、地域資源を活用した「ふるさと名物」の開発支援、「地域ブランド」の確立等付加価値の向上等)
14.7 2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。 132 農林水産業の成長産業化(需要フロンティア拡大、バリューチェーン構築、生産現場強化)
15.2 2020 年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。 132 農林水産業の成長産業化(需要フロンティア拡大、バリューチェーン構築、生産現場強化)
資料:外務省(2015)我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ(仮訳)、内閣府地方創生推進室(2014)地方創生総合戦略(案)をもとに筆者作成※ 抜粋でない表全体は、〈http://homepage1.nifty.com/nakaguti/work/gyoseki/20151014SDGs.pdf〉でご覧いただけます。

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