NSCニュース No.108 2017年7月NSC勉強会 報告「これからの環境CSR・環境報告書」
2017年07月20日グローバルネット2017年7月号
NSC幹事、一般財団法人持続性推進機構専務理事
森下 研(もりした けん)
NSCでは、勉強会「これからの環境CSR・環境報告書」を6月2日にGEOC(東京・渋谷区)にて開催しました。第20回環境コミュニケーション大賞で環境大臣賞を受賞した大和ハウス工業株式会社およびSOMPOホールディングス株式会社からの取り組みや環境報告書の内容などに関する事例報告の後、今後の環境CSR報告の在り方について、NSC代表幹事の後藤敏彦氏と環境省環境経済課課長補佐の齋藤英亜氏が対談しました。
環境CSR報告の方向性
持続可能な開発目標(SDGs)の採択、パリ協定の発効にはじまり、わが国でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が責任投資原則に署名し、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が進展しつつあるとともに、企業の情報開示の重要性が極めて高くなるなど社会は大きく変わろうとしています。
「環境コミュニケーション大賞制定20回記念大賞 採点表」において、①国内外の長期的ビジョンをフォアキャストしたビジョン・方針を打ち出しているか、②具体的な目標設定を、バックキャスティングしているか、③社内カーボン・プライシングの導入が評価項目として挙げられていますが、これは企業がSDGs、パリ協定、IPCCレポートなどを踏まえ、長期的な視点で方針やビジョンを持っているか、そしてどう取り組んでいるかを評価するものであり、今後の環境CSR報告の在り方を示しているものです。
そして本年4月18日、環境省は「環境報告ガイドライン及び環境会計ガイドライン改定に向けた論点整理」を公表し、12の論点を挙げています。重要なポイントは以下のとおりです。
マテリアリティーと網羅性
企業が環境CSR報告、情報開示で留意しなければならない点は、報告内容、つまり開示情報の「量と質」のバランスです。環境面だけでなく社会面、ガバナンス面にも配慮し、環境面とESG情報、統合報告を適切に調和させることが求められています。
これまでどちらかといえば「企業が重要と考える情報」を報告・開示する傾向がありましたが、これからは「企業活動が環境に与える影響の重大性」と「ステークホルダーの意志決定に重要な情報」という二つの観点から報告・開示を行う必要があります。とくにアセットオーナー、アセットマネージメントカンパニー、インフォメーションベンダーなどの投資家グループが必要とする情報を重視していくことが求められており、そうすれば他のステークホルダーをも満足させることができます。報告主体は「連結」ですが、上記の点を踏まえ報告・開示する際のバウンダリーは「バリューチェーン全体」を考慮しなければなりません。
そして、ステークホルダーが企業を評価する際の情報としての網羅性を考えていけばいいのです。その網羅性は企業規模によって異なります。ESG情報の評価項目は900~400項目程度といわれています。大企業は質・量ともに充実した報告・開示が求められますが、チェックリスト的にすべてを網羅する必要はなく、中堅企業は身の丈に合ったマテリアリティーを踏まえた網羅性で良いといえます。ステークホルダーが必要と考える情報とは何かをよく考えることが必要で「報告・開示されていなければ評価はゼロ」であるということです。
環境CSR報告の信頼性
重要な情報が網羅されている上で、報告・開示にあたっての信頼性も重要です。欧米では財務情報と非財務情報は一体的なものとして重視され、その「監査・第三者保証」が当たり前と考えられていますが、わが国ではその一体性がまだ十分に認識されていません。
今後、海外のステークホルダー、とくに機関投資家からは、監査や第三者保証のない報告・開示は評価されず、企業評価そのものが低くなってしまうということを十分認識する必要があります。ESG投資がメインストリーム化する中で、とくに環境面、社会面での情報の信頼性が重要になってきます。
今年度からの環境報告ガイドラインおよび環境会計ガイドラインの改定は、三つのフェーズに分け、数年かけていく方向で検討されています。最初は、ガイドラインに盛り込む項目を重点的に検討し、その項目の解説などは2年目以降に検討していくことになると考えられます。