特集 ミツバチと、生態系と農業を守るために~日本でも求められるネオニコチノイド系農薬の使用規制~ミツバチが届けるメッセージ

2017年07月20日グローバルネット2017年7月号

NPO法人銀座ミツバチプロジェクト 最高顧問
高安 和夫(たかやす かずお)

10年ほど前から世界中で見られるようになったミツバチの大量死。その原因は日本でも広く普及しているネオニコチノイド系農薬であるといわれ、欧米を中心に使用を規制する動きが進んでいます。ハチミツ採取だけでなく、野菜や果樹の受粉に関わるミツバチの減少が及ぼす農業への影響は大きく、問題は深刻です。本特集では、すでに使用規制の強化を進める欧米の企業やNGOの最新の動向を紹介し日本で今後緊急に求められる対策と課題について考え、ミツバチの大量死に見舞われた養蜂家の現状と現場の声、都市養蜂や障がい者とともに取り組む養蜂などの新たな試みについて紹介します。

初めて銀座に巣箱を設置した2006年3月28日から12年目を迎えた今年は4月、5月と晴天が続いたことにも恵まれ、品質も良く、糖度の高いハチミツを収穫することができました。当初は「銀座でミツバチを飼って大丈夫なの? ミツバチは刺すでしょう!」と心配してくださる方もいましたが、おかげさまで事故もなく今日まで活動を続けてこられたのは、街の理解や支援、ボランティアで集まってくれた人々、そして休む暇がなくても献身的に仕事を頑張ってくれた養蜂スタッフの皆さんがいてくれたからこそです。皆さんに感謝の意を表したいと思います。

ミツバチをめぐる情勢

さて、この1~2年でハチミツの需要が急に増えていることをご存知ですか?

農林水産省が発表した「養蜂をめぐる情勢」(2016年10月)によると、2015年の国産ハチミツ生産量は2,865tで、この5年ぐらいの国内生産量は約2,800tで横ばいです。輸入量は、2015年は3万6,222tで近年は大幅な増減は見られなく、2015年のハチミツ国内自給率は約7.3%でした。ところが、2016年の年間輸入量は4万8,445t(財務省貿易統計データ)で、前年度と比べて134%の増加となりました。数量は、中国からが最も多く3万5,466tで全体の約73.2%を占め、前年比134%で増加しています。続いてアルゼンチン4,201t前年比128%増、カナダ3,054t前年比107%増、ハンガリー1,195t前年比166%増と続きます。2016年度の国内生産量を2,800tだと推定するとハチミツ国内自給率は5.4%です。大幅な国内ハチミツ需要の増加を輸入ハチミツが支えています。

一方、国内の養蜂現場の現状は、全国的に開発が進んだために蜜・花粉源となる樹木の減少、農薬の被害、ミツバチ特有の病気や害虫の被害、さらにクマやシカ、イノシシなどの獣害も深刻です。さらに、長年、徒弟制度を基本に技術の伝承を続けてきた養蜂業界では担い手不足も深刻です。

そうした養蜂界での朗報は、100群以下の群数でも、ミツバチを丁寧に飼育し、収穫したハチミツをマルシェや直売所、インターネットなどで自ら販売する養蜂家の登場です。彼らは広域での移動はせずに、地域の蜜・花粉源を育てながら養蜂を続けます。ちょうど銀座ミツバチプロジェクトと同じスケールの、年間ハチミツ収穫1tでも独立可能です。そして、今、自然栽培農家の間で養蜂への関心が高まっています。また、障がい者就労支援事業所でも、養蜂を事業に取り入れる検討が進んでいます。

農福連携をミツバチで推進する自然栽培パーティ

自然栽培で農福連携を推進する障がい者就労支援事業所が集まって設立した、一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(自然栽培パーティ)第2回全国フォーラムが5月19、20日の2日間、福島県郡山市で開催されました。初日は、「奇跡のリンゴ」で知られている青森県の自然栽培農家、木村秋則さんの講演や、全国各地区での活動事例が紹介され、懇親会では木村さんを囲んで自然栽培パーティの佐伯康人代表と私の3人で「自然栽培とミツバチ飼育を推進して、地球温暖化に歯止めをかけ、あらゆる生き物や自然の生命を次の世代に引き継ごう!」と固い握手を交わしました。

2日目は福島県郡山市中田町にて木村さんの指導を受け80本のリンゴの苗木の植樹。リンゴの木の下でニホンミツバチを飼育したいという希望を聞いて、私も待ち受け巣箱を持参し、ミツバチの捕獲や管理の注意点を解説しました。

木村さんは「肥料、農薬、除草剤を使わない農業を広めることで地球温暖化に歯止めをかけ、地球を修復したい」そして「自然栽培に切り替えると、田んぼに本来の生態系が戻り、レンゲを植えればミツバチも花を求めてやって来る」とうれしそうに話します。木村さんと植えたリンゴの花をミツバチが受粉する日が待ち遠しいです。

もちろん「障がい者がミツバチに刺されたらどうするの?」という意見はあります。しかし、養蜂という仕事全体を見渡した時、ミツバチの飼育管理はその一部にすぎません。また、障がい者だけですべて完結するのではなく、事業所の職員が十分な知識と技術を身につけ、障がい者の皆さんの適材適所な配置と、無理のない作業工程の細分化を実現することが大切です。巣枠からミツバチを振るい落とした後の、遠心分離機を使った巣枠とハチミツの分離作業、濾器での異物除去、瓶詰め、ラベル貼りなど、できる作業はたくさんあります。また、カフェやレストラン、スイーツショップを運営する事業所もたくさんあります。彼らはハチミツの生産から、加工、販売まで一貫して事業所内で対応できます。

また、障がい者とミツバチどちらも周囲の環境に影響を受けやすいことも似ています。さらに言えば、どちらも周囲の人々の“優しい気持ち”を引き出す役目があるような気がします。障がい者とミツバチ、そして自然栽培はとても親和性が高いと思います。

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左から、自然栽培パーティ佐伯康人代表、高安、獣医師長谷川清先生。日本ミツバチの飼育指導をしている様子

ソーシャルファームはぁもにぃの活動

特定非営利活動法人はぁもにぃ(はぁもにぃ)では、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業として、就労継続支援(A型事業所)を提供し、コミュニティーカフェ、お菓子工房、農業部、養蜂部、グループホームを運営しています。理事長の長浜光子さんも障がいを持つ子の母親で、小学校の特別支援学級の保護者仲間で子供たちの働く場を作るために設立したそうです。長浜さんは「養蜂は、欧米では障がいを持つ人のポピュラーな仕事」と聞いて、養蜂に関心を持ち、地元養蜂家である坊ノ内養蜂場の鈴木一さんに相談し養蜂部を立ち上げました。実際に養蜂を事業に取り入れて「もちろん生き物を飼うので機転を利かせることも必要であるけれど、そこさえサポートすれば基本は同じ作業の繰り返し、しかも動作が速いよりも、ゆっくりであることの方が求められることから、知的障害や発達障害の人にもできる仕事が多い」と感じたそうです。

千葉県君津市、東京湾を望む高台の森の中で活動する、はぁもにぃ養蜂部を訪問しました。その日も鈴木さんの指導の下で3人の利用者(障害を持つ方)と支援員1人がチームで働いていました。

ハチミツの収穫作業では、鈴木さんが蜜刀を使って蜜蓋を切る、1人が巣枠を遠心分離器に運び、1人が遠心分離器に巣枠をセット、支援員が確認し合図すると1人が遠心分離機を手拍子に合わせて回し、他の2人が揺れないようにしっかり押さえる。チームワークで作業が進みます。

また、巣枠を巣箱に戻す作業では、巣枠を運ぶ係、燻煙器で煙を掛ける係、巣箱の屋根を外し、蓋を開ける係に分かれて作業をします。鈴木さんは丁寧に巣枠を巣箱に戻していきます。あとで話を聞くと、3人の仕事はそれぞれの性格や能力に合う仕事を割り振っているそうです。養蜂部で収穫したハチミツは、そのまま販売するだけでなく、お菓子工房やカフェでも利用され、農業の6次化成功事例としても注目されています。

今後は、銀座ミツバチプロジェクトで経験した、小規模でも丁寧な養蜂による質の高いハチミツづくりや、シェフやパティシエとの連携による商品づくりを、障がい者支援の分野で生かして行きたいと思います。

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