フロント/話題と人造形作家 志村 リョウさん
2017年07月20日グローバルネット2017年7月号
アートとデザインの力で小さなきっかけを
動物を博物館で見るような世界にしないために
造形作家 志村 リョウさん
東京・浅草橋で開催されていた個展「kabaii!!」を訪ねると小さいギャラリーの中央に100体の「空飛ぶかばの子どもたち」がいた。雲を抜けて来て濡れているカバ、日向ぼっこして皮膚が乾いているカバ……みんなが違う表情、形をしたカバが宙を飛んでいる。
子どものころの遊び場にカバのオブジェがあった。その潜在的な記憶からか、志村さんはカバにひかれ、東京造形大学大学院在学中よりカバの作品を作り始める。恩師である益田文和先生に「なぜカバが好きなのか、調べてみたら?」と言われ、カバを追究していく。
生き物は長い年月の進化を経て、人間が作り出せない機能美を備えた。それは、デザイン製作の過程と似ているという。それを人間は短い時間で絶滅に追いやろうとしている。2010年ごろの当初は「狩猟によって減少したコンゴのカバ」などタイトルも作品もストレートだったが、最近はより抽象的なスタイルに変わり、見た人に「きっかけ」を提供していきたいと考えている。「ぼくの作品を見て、カバを好きになって、そこから次につながれば。リアルをリアルに伝えても伝わらない。まずは興味を持ってもらうことが大事」と言う。
東京造形大学でサステナブルプロジェクトを専攻し、アート・デザインを通してサステナビリティを考えるということをその道の第一人者の教授陣より学ぶ。単に新しい学科で好きなことができそうだという理由で選んだというが「この専攻を選んでいなかったら今の自分はなかっただろう」と振り返る。
意外にもアフリカなどの現地をまだ訪れたことはない。「初めての感情を大事にしたい。初めては1回きりしかない。現実を見たら、もしかしたら作風が大きく変わるかもしれない。今、日本でやれることをすべてやってから、現地には行きたい」と理由を語る。
「絶滅危惧種だから守るのではなく、絶滅危惧種にしてはいけない。恐竜みたいに動物が博物館でしか見られないような世界は怖くないですか」と問う。「次世代へのきっかけとなるようなカバ公園を作りたい」とも語ってくれた。現地に赴き作風に変化は訪れるのか? 5年後、10年後の活躍が楽しみだ。(亜)