環境条約シリーズ 288食料および農業のための植物遺伝資源に関する国際条約ITPGRFA
2016年03月15日グローバルネット2016年3月号
前・上智大学教授 磯崎 博司
2015年10月5日から9日まで、食料農業植物遺伝資源条約(ITPGRFA)の第6回理事会がローマの国連食糧農業機関(FAO)本部において開催された。
そこでは、ITPGRFAの下の利益配分基金(BSF)の資金が計画額に比べて大幅に不足していることを踏まえて、その多国間制度(MLS)の改善に焦点が当てられた。開発途上国は、利益配分が任意であることを批判し、標準素材移転契約(SMTA)の改正およびMLSへの利用者登録制度の導入を主張したが、先進国や農業研究機関は慎重な対応を求めた。また、開発途上国は、食料農業植物遺伝資源(PGRFA)の保全と持続可能な利用について、農民の役割を重視して実現することを求めた。
こうした論議の結果として、MLSの機能強化に関する決議は、特別作業部会に対して、SMTAの第6条11項の改正を含めて登録制度を設けるための全体案を作成すること、そのために新たな法的文書が必要な場合は条約改正または議定書策定を含めてその検討を行うこと、また、MLSの対象範囲の拡充を検討することなどを求めた。また、資金戦略の実行に関する決議は、その戦略の再検討、BSFの財源の確保作業の継続、特別な増額支援などを求めた。
ITPGRFAの第6条(PGRFAの持続可能な利用)の実施に関する決議は、その利用のための改定作業計画を附属書に掲げるとともに、その実行、農民の権利との関わりの認識、すべての農民によるMLSの利用の促進、農民が管理している多様な品種の広範な活用などを求めた。第9条(農民の権利)の実施に関する決議は、各国での実施状況の改善、農民の権利に関する教育素材の作成などを求めた。また、世界情報制度の基本構想および作業計画に関する決議は、PGRFAの保存・管理・利用の促進に向けて、基本構想および2022年までの作業計画を定めた。
そのほか、遵守確保のための標準報告書式の改定、関連する条約や国際組織などとの協力、中期事業計画などに関する決議が採択された。