世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する団体第14回/成功の植林がアブラヤシ開発で大火災
2016年03月15日グローバルネット2016年3月号
ウータン・森と生活を考える会
西岡 良夫(にしおか よしお)
違法伐採から再植林へ仕事を変える人びと
インドネシア中部カリマンタン州のタンジュン・プティン国立公園は、とくにオランウータンの生息地として有名だ。36万ha強の地域に、他にも絶滅危惧種ボルネオ・シロヒゲテナガザルやテングザル、レオパード・キャットが生息し、泥炭湿地にはラミンの木などが生える。
国際オランウータン財団(OFI)は3,000~3,500頭のオランウータンが国立公園内に生息しているとずっと公表しているが、これは謎だ。私たちと植林作業を協働するFriends of the National Parks Foundation(FNPF)のバスキ・ブディ・サントソ氏は、「多分1,500~2,000頭だろう」と言う。
テングザルは1991年にセコニア川側の西部で450頭生息とのデータが発表されたが、それ以降科学者たちはその個体数すら調査していない。なぜか……? それは現地インドネシアの木材密輸王(元国会議員)が1990年代半ばあたりから「国立公園は金がなる地」として違法伐採を繰り広げたからだ。NGOやジャーナリストなどは、命の危険にさらされる目に遭っており、危険で調査できないのだ。
違法伐採企業に加担していた村人たちも、余りにひどい密輸王の仕業を知り、2003年から次々と伐採をやめ、2005年からFNPFとともに植林作業を始めていた。しかし、現地の環境NGO・Telapak(テラパック)の仲間は「2005年に違法伐採は大半が停止したが、まだ危険で行けない」と言うので私が調査に行くことにした。違法伐採は公園内のセコニア川沿いですべて停止していた。その時FNPFに出会った。FNPFは当初オランウータン保護のために公園内で活動を始めたが、違法伐採の状況がひどすぎるために植林活動もしていた。
野生オランウータンが再植林地に住み始める
2014年9月26~27日にオランウータン保護センターのパウリヌス君、FNPFのアドウ君とセコニア川でのテングザルの個体数調査をした。移動が速いテングザルの調査は難航したが、最終的にテングザルの最小・最大個体数はセコニア川だけで320~388頭だった。一群の個体数の平均は30頭だ。ボス猿が一群を仕切り、副ボスが軍団を守る。オランウータンは強いボスなら大きなエラがあり、弱いオスはエラがない。強いオスは自由に動き回るが、1匹狼のように警戒心が強い。生態系は面白い。
私たちは、地球環境日本基金からの助成金でも再植林を進め、「オランウータンの住める森」を作ろうと現地のNGO中心で植林と管理作業を進めてきた。
遂にその日が来た!! アドウ君が指さす。元の森と村人がFNPFと植林し森になった所にオランウータンが巣を作っていたのだ(写真①)。「やったあ!」
国立公園内のブグル地域では、植林の間隔を5mから3mに変更するなどの改善策も功を奏し、いくらか伐採された森だったが、今は多種の木々が育つ、素晴らしい原生種の植林になった(写真②)。
次の日は、クマイ・セビラン村での泥炭湿地調査と開発状況の確認だ。FNPFのメンバーも久しぶりに行くから、わくわくしていた。
今問題になっている泥炭湿地でのアブラヤシ開発
クマイ・セビラン村での泥炭湿地の調査では、7ヵ所のうち4ヵ所が深さ3m以上でアブラヤシ農園開発が許されていない地区だ。現地ではパーム油を生産するためにアブラヤシ農園開発が進んでいる。アブラヤシ企業ASMR社が実施した環境影響評価では大半が泥炭地と記されている。
調査地近くには火災跡が残っていた。アブラヤシ開発のための伐採か、誰かによる火付けか。その飛び火により国立公園内は火災になった。ASMR社(親会社BGA社)はアブラヤシ事業権や環境アセスメントの合意なしに2013年6~7月、違法に森林伐開した。鎮火させることなしに火事を放置した。そこで私たちは2014年末に、ASMR社もメンバーである「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)※」などに対し、以下の内容を申し入れ、開発を問うた。
①2012年の環境影響評価制度の義務の規則で、ASMR社は森林の環境影響評価を実施して環境許可を得なければならない。深さ3m以上の泥炭地開発は農業法でも禁止されており、泥炭地と知り、開発することは違反だ。生息地調査もなく、ギボン(猿)、ウリン木、ラミン木などの希少種が生息するが、企業の調査報告はずさんだ。再調査を要求する②ASMR社によるクマイ・ヒル村、ジュルンブンやトルク・プライ村地域での森林伐開は違法。本来アブラヤシ事業権を得て、認められて補償を支払い、土地利用認可権許可を国家土地局に提出しアブラヤシ事業が行われる。だが事業権、環境許可取得、認可なしに2013年6月から伐採しており、明らかに違反である③火災が発生した以上、管理責任はASMR社にある。親会社BGA社は「火災発生ゼロ政策」をアニュアルレポートに記載している以上、消火体制を早急に作り、火の見やぐらだけでなく消防車の設置なども考慮すべき。
しかしRSPOからの回答はなく、ぬかにくぎだ。
鎮火困難の泥炭地、その後2016年は…
2015年7月以降、雨がまったく降らず、気になっていたが、9月に国立公園内で火災が発生した。現地の空港は閉鎖され、他の空港へ飛び陸路で現地へ入った。当然、その時行っていた生物相調査は中止した。
現地ではメンバーの大半が鎮火作業をしていた。パウリヌス君と私は、ジュルンブンの泥炭湿地の鎮火作業に加わった。しかし消せない火。大地の底から火が吹き出す。靴が燃える。小型消火器で火を消しても、次々と燃えてすべては消せない。バスキ氏は「池の水がなくなり、ホースも短く川からの取水は無理。作業は中止だ」と言った。この地区はその後1ヵ月間燃え続けた。
10月に国立公園内の各地が燃えた。公園内ブグル地区の植林地の4割が燃え、公園の4分の1の9万haが11月までに燃えた。原因の大半は降雨がないためと公園の周囲にあるアブラヤシ農園が鎮火せず飛び火が拡大したからだった。
日本に戻り、緊急集会を開き、カンパを募った。2016年1月、集まったカンパで不足していた小型消火器を購入し、現地へ持参した。現地は燃えた木々が広がっていた。しかし根元から若芽が萌芽している。大半の燃えた木は完全に死んではいなかったのだ。
帰路、オランウータンの鳴き声を聞いた。戻りつつある森林と生態系に喜んだ。「やった! 復元できる」。しかし、安堵しているわけにはいかない。巨大エルニーニョ現象の発生が気になる。