特集/シンポジウム 地域から考える気候変動問題 in 熊本 将来の影響に適応するために気候変動による影響と適応について

2016年03月15日グローバルネット2016年3月号

環境省 地球環境局 研究調査室
千々松 聡(ちじまつ さとし)さん

特集/シンポジウム
地域から考える気候変動問題 in 熊本
 将来の影響に適応するために

政府は昨年11月末に「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定しました。気候変動への適応策を強化し、地域の特性に踏まえた対策を講じることが重要です。

気候変動問題を考えるシンポジウムが、熊本市で1月に開催されました(主催:環境省、共催:熊本県)。気候変動による影響と適応、そして近年九州地方でも増えている大雨による水害とその対策に関する講演とパネルディスカッションの内容を紹介します。

世界の平均気温は、1880年から2012年の間に0.85℃上昇しています。そして2015年の世界の平均気温は統計開始以降最も高くなる見込みだと言われています。

そして二酸化炭素(CO2)の排出量は産業革命以降、徐々に増加し、近年は急増しています。

CO2の累積排出量と平均気温上昇は比例関係にあるということが最近わかってきました。そこで、将来の気温上昇を抑えるために、CO2の排出削減の目標を決めていくことになります。

日本でも顕著な気温上昇と降水量の増加

日本の気温は長期的には上昇傾向にあります。100年当たり1.14℃上昇しており、世界の推移よりも上昇程度が大きくなっています。また、降水についても、1時間降水量50㎜以上の短時間強雨の観測回数は増加傾向が明瞭に現れています(図①)。私たちは普段の生活で実感しているかと思いますが、実際に統計としてもそのような結果が出ています。

アメダス地点で1時間降水量が50mm以上となった年間の回数(1,000地点あたりの回数に換算)。折れ線は5年移動平均、直線は期間にわたる変化傾向を示す。
出典:気象庁『気候変動監視レポート2014』

今後、厳しい温暖化対策を取ったとしても今世紀末には約1.1℃、取らなかった場合は4.4℃も気温が上昇すると予測され、降水量についても大雨や短時間強雨の発生頻度の増加、大雨が降った場合の降水量の増加、無降水日数の増加、などが予測されています。つまり、雨が降らない時は全く降らないのですが、一度降った時は大雨になり、災害のリスクが高まることが予測されるのです。

すでに起こりつつある影響と今後起こり得る影響に必要な適応策

気候変動によって、コメや果樹などの品質の低下や大雨の発生頻度の増加に伴う洪水の被害、熱中症患者の増加、感染症の媒介生物の生息域の拡大・分布の北上、サンゴの白化やニホンジカの生息域の拡大などの影響がすでに起こりつつあります。

そして今後は、農業栽培適地が変化し、栽培できなくなるというリスクが考えられます。例えば、熊本県の沿岸域はウンシュウミカンの栽培適地として考えられていますが、温暖化対策を取らない場合、21世紀末に熊本県は適地より高温になり、ウンシュウミカンの栽培ができなくなるというリスクが考えられます。

その他、自然の海岸の消失なども懸念されています。

このような、すでに起こりつつある、あるいは今後起こり得る気候変動の影響に対して自然や社会の在り方を調整することを適応策といいます。具体的な適応策としては、食料生産における新しい栽培技術の導入や品種の改良などがあります。また、大雨に対しては、洪水が起こった時に浸水する範囲を予想して地図化した洪水ハザードマップが、洪水が起きた際の避難経路や避難場所を決める一助となります。さらに、暑い日が続く際に一般の人びとができる適応策としては、熱中症を防ぐために暑さを避ける、衣服を工夫する、行動に気を付ける、こまめに水分を補給する、急に暑くなる日を気象情報などを見て考える、などが考えられます。

日本政府の気候変動への適応の取り組み

日本政府としては、2014年に中央環境審議会地球環境部会に気候変動影響評価等小委員会を設置し、より詳細な日本の気候変動の予測や、影響の整理(7分野、30の大項目、56の小項目)、項目ごとの現在の状況・将来予測される影響についての検討、重大性・緊急性・確信度についての評価などを行い、昨年11月、気候変動の影響に総合的かつ計画的に対処するため、「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定しました。第1部に日本の基本戦略とその進め方などの基本的考え方、第2部は分野別施策、第3部には地域での適応の推進や途上国支援などの基盤的・国際的施策で構成されています。

昨年末、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択されましたが、日本は早期署名・締結に向けて必要な準備を進め、日本が打ち出した途上国支援・イノベーションから成る新たな貢献策「美しい星への行動2.0」の実施に向けて取り組みます。

また、日本の約束草案を確実に実現するため、今年春までに地球温暖化対策計画を策定し、「適応計画」も着実に実施します。さらに、世界共通の長期目標となった2℃目標の達成に貢献するため、長期的な低炭素戦略の策定に向けた検討に着手することを当面の課題として取り組んでいきます。

タグ:, ,