フロント/話題と人佐々木 久雄(ささき ひさお)さんNPO法人環境生態工学研究所 理事

2016年05月15日グローバルネット2016年5月号

「復興には生態系を守る視点を」震災で流失した松島湾のアマモ場の再生に取り組む

「10年で元の姿に戻したい」。東日本大震災の津波で流失した宮城県松島湾の海草アマモ場の復活に取り組む佐々木さんは、長い目で生態系の再生を考える。

佐々木 久雄(ささき ひさお)さん

2011年3月、松島湾を襲った黒い波は、小魚やエビ、カニが生まれ育つ“海のゆりかご”アマモの森を根こそぎ奪った。「湾内にいたはずのハゼやカレイの姿が見えない」。佐々木さんは漁師たちから海の異変を聞き藻場の調査を開始、その再生を目指す活動を始めた。

「自然が元に戻ろうとする力を人が手助けする」方法は二つ。一つは「移植」。津波を逃れ、島影に残ったアマモの苗を採り、約10株と泥を詰めた紙袋を浅場に固定したり、1株ごと泥団子に包んで植える。もう一つは「種まき」。花を咲かせる「花枝」を網袋に入れ、海に浮かべておく。春先に採取した枝にはやがて種が実り、浅瀬に落ちて芽を出す。「地味な仕事」と佐々木さんは笑うが、活動は市民や学生、水族館職員、漁協有志など150人が参加するまでに広がった。

震災前、松島湾のアマモ場は自身が関わった県の調査によると約213万m2も広がっていたが、震災後の2012年5月にはその約1%にまで激減した。しかし昨年夏の調査では約20%に。緩やかに回復している。

佐々木さんは北海道大学水産学部を卒業後、宮城県庁の公害規制課(当時)に配属され、高度成長期は松島湾の赤潮被害に向き合った。河川から流入する排出物をコントロールする公害対策に対し、「工場の廃水規制だけで海はきれいにならない」と痛感したという。

試行錯誤の末に行き着いたのは、藻場の大切さを漁師に広めることだった。50代初め、勤務の傍ら東北大学で海藻の海水浄化機能を研究したのが転機となる。漁船の航行を妨げ、邪魔ものにされた海藻アカモクに注目。「海水を浄化し、栄養もある。捨てずに増やそう」と漁師たちに説き、商品化に結び付けた。今、アマモ再生を手伝う漁師たちは当時からの付き合いだ。

気掛かりなのは復興工事の影響だ。海沿いの道路の復旧工事や防潮堤建設のため大量の土砂が運ばれてくる。海に流れ込めば、復元しかけた藻場に降り積もり成長を妨げる。「復興になぎさの生態系を守る視点を」と訴える。気仙沼市出身。65歳。 (K)

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