世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する団体第16回 アマゾン河岸林の生態系と持続可能な開発

2016年07月15日グローバルネット2016年7月号

地球と未来の環境基金 理事長
古瀬 繁範(ふるせ しげのり)

 

アマゾン河岸林の生態系

アマゾン川は世界最大の河川として有名です。流域面積は約705万km2と広大で、ブラジル、ペルー、ボリビアなど複数の国にまたがり、水源地域から河口までの長さは6,400km超(地球の半径と同等)あります。

日本の河川は水源地から河口までの距離が短く、勾配が急ですが、アマゾン川は勾配が緩やかで、流域にはヴァルゼア(varzea)と呼ばれる肥沃な土壌に河岸低湿地林が繁茂するエリアが広がっています。川の水の干満で水没と露出を繰り返すヴァルゼアの生態系は、洪水を緩衝する季節性浸水林に縁取られ、アサイーヤシをはじめ野生果樹に富み、魚介類や鳥類の採餌や繁殖の場となっています。

アサイーブームと河岸林生態系の変容

近年、スーパーやコンビニの店頭で「アサイー」という名称の商品を見掛けることが増えました。アサイーはブラジルのアマゾン地域が原産のヤシ科の植物です。その実に含まれるポリフェノールや鉄分など栄養価が高く、欧米からブームに火が付き、日本でも健康食品として人気を集めています。

アサイーは現在のようなブームになる以前から、アマゾン地域では日常的に食されていました。かつては市場に出しても大したお金にならなかったものが、その実の1籠(約28kg)は現地市場で時期にもよりますが200~250レアル(日本円で6,200~7,700円前後)で取引されるようになりました(写真①)。

写真1 港の市場で取引されるアサイーの実。近年価格が高騰している

こうしたアサイーの高騰により産地アマゾンの河岸林で何が起こっているのかといえば、いわゆる金にならない樹種の違法除伐です。人びとは多種多様な樹木を切り払い、実が高く売れるアサイーヤシ一辺倒にしていくのです。かつて自給自足が中心だった地域住民は、アサイーの実を市場に出し、得た収入で電気冷蔵庫やテレビ、船のエンジンなどを購入し、生活水準を向上させています。

地域住民の生活の質が向上すること自体は喜ばしいことです。しかし、アサイーヤシ以外の樹種を切り払うことで、魚介類、鳥類、受粉昆虫類が減少するなど、ヴァルゼアが持っていた極めて豊かな生物多様性が失われます。偏った樹種構成となった森では、数年間は増植したアサイーヤシによりその実の収穫量も増えますが、やがて低減する現象が現れています。

その原因は、いくつか複合的に考えられますが、除伐により森林の地表が露出し、乾燥してしまうことや、受粉昆虫類が減ることで、アサイーのような被子植物の受粉機能が低下することなどが考えられると現地の森林事情に詳しい専門家は指摘します。つまり生物多様性が失われ、生態系のバランスが崩れたことが収穫量減少の要因だと考えられます。

アグロフォレストリーの導入

アグロフォレストリーは、森林農業とも呼ばれ、樹木を植えてその樹間で家畜を飼ったり、果樹などを栽培する複合的な農林経営の手法です。

当団体では、アグロフォレストリーの世界的先進地ブラジル・パラ州トメアスにある日系農業団体の支援を得て、2008年からアマゾン東部のパラ州ベレン市近郊で、アグロフォレストリーの普及啓発と導入を支援してきました。その経験を生かして、私たちは2014年から地球環境日本基金の助成を受け、アサイーの収穫量を増やすために過度な除伐を行う住民へ、アグロフォレストリーの手法を伝え、導入を支援する活動を始めました。

ヴァルゼアのような浸水域でのアグロフォレストリー実践例はまだまれで、本活動により得られるデータや知見は、学術的にも貴重なものです。

展示農地(モデル農地)の設置

活動を実施しているのは、パラ州アバエテトゥーバ市近郊の集落です。アマゾン川には無数の支流が毛細血管のように流れており、活動対象地の集落(サン・ジョアン・バチスタ村)は、市の港から小型ボートで1時間ほどの小さな支流域にあります。

こうした活動を行う際に一番重要なのは、地域でその意義に賛同してくれるリーダー的な住民をつかむことです。現地カウンター・パートNGOのASFLORA(アマゾニア森林友の協会)の協力を得て、サン・ジョアン・バチスタ村の湿地帯で農業を営むハイムンド・ファリアスさんが協力してくれることになりました。

普及啓発の具体的な方法として、まず地域住民にアグロフォレストリーを目で見て理解してもらうため、小規模な展示農地(モデル農地)をハイムンドさんの土地に設置しました。0.6haほどの展示農地には、成長の早い木(インガと呼ばれるマメ科の常緑樹など)、短期間で果実が収穫できる木(バナナやアセロラなど)、高木の陰で育ち5年程度で実のなるカカオなど、住民にも収穫の恵みが得られる樹種を混植しました。

普及啓発のワークショップ

次に、展示農地を設けた近隣のコミュニティを訪問し、住民たちにアグロフォレストリーの手法を紹介し、話し合う場を設けます。いきなり違法除伐はいけないと説いても、森の中で生活の糧を得ている住民から反発を買うだけです。

まずは、森林が一面アサイーヤシだけになるとどういう影響を生むかを丁寧に説明します。その上で、将来に向けて安定的にアサイーの実の収穫量を確保し、さらに他の作物により収入源を多様化できることを理解、実感してもらうことが大事です。多様な樹種を導入することで、収穫時期も多様になり、年間を通じて安定的に金銭収入が確保できる点も、アグロフォレストリーの利点です。

2年ほど前にアグロフォレストリーを導入したハイムンドさんは、専門家の指導を受け、養魚や養豚も組み合わせて、収穫物の多角化、収入の安定化を実現させています。

昨年は地域住民を集めたワークショップを開催し、ハイムンドさんも参加して、同じ住民の立場で自らの経験、感想を話してもらいました(写真②)。

写真2 地域住民を集めたワークショップで、アグロフォレストリーの意義や自らの経験を語るハイムンドさん

地域の自治と持続可能な農業

浸水林エリアでのアグロフォレストリーは、まだ緒に就いたばかりです。これが地域に根付くには、植え付けた多様な樹種から安定的な収穫と収入が得られ、住民がそれを実感することが必要です。また、住民が自律的にアグロフォレストリーを実践する環境整備も重要です。今年は住民が共同で管理し、苗木を自前で生産できる「苗畑」の設置を計画しています。

アグロフォレストリーを導入しようとする住民への継続的な技術支援、指導も必要で、先進地のトメアスで行われる技術研修へ住民を参加させるなどの支援を継続していきたいと思います。

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