ホットレポート持続可能な森林利用とは?
アブラヤシ農園開発の現場報告から考える
2016年11月15日グローバルネット2016年11月号
地球・人間環境フォーラム 京極 絵里(きょうごく えり)
9月末、当フォーラムは東京都内でセミナー「熱帯林とプランテーション:持続可能な森林利用に向けて ~環境と人権に配慮したパーム油・紙の調達とは~」を開催した。本レポートでは、セミナーに招いた、プランテーション開発の現場でパーム油に関わる環境・社会問題に取り組んでいる2名のNGO担当者が紹介してくれた現状と今後の課題について報告する。
マレーシアのパーム油生産企業IOIグループの事例
まず、インドネシアで主にパーム油問題について活動するNGO、エイドエンバイロメント(AE、本部アムステルダム)のプリシラ・モリン氏が、違法な開発行為が明らかになっているマレーシアのパーム油生産企業大手IOIグループの事例を紹介した。
IOIは1985年からパーム油のビジネスに参入した。現在アブラヤシ関連事業はグループ全体の収益の67%を占める。マレーシアに3ヵ所とオランダに1ヵ所、計4ヵ所の精製所がある。搾油所は14ヵ所あり、うち12ヵ所は「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の認証を取得している。
事業地は全体で21万7,000?ha余りに上り、64%がマレーシアのサバ州やサラワク州など、23%が半島マレーシア、11%がインドネシアに分布し、その3分の2がすでに認証を取得している。
IOIはRSPOの共同設立メンバー10組織の一つであり、独自の持続可能性に関する方針も策定していたが、今年4月、インドネシアでの違法な操業を理由にRSPOから新たな認証の一時停止処分を受けた。
さまざまな違法行為により認証停止処分
IOIは2006年、サラワク州で操業するプランテーション会社の株式70%を取得し、2007年にはインドネシア・西カリマンタン州のプランテーション会社4社の株式の67%を取得し、サラワクおよび西カリマンタンへの進出を果たした。
2006年当時、IOIはサラワク州での開発に絡み、地元コミュニティとの間で裁判係争中であったが、「コミュニティとの対立は深刻な問題ではない」として、農園開発を強硬に進めた。この裁判については2010年に裁判所が「土地はコミュニティに帰属する」として、IOIに対し土地の返還は求めなかったが、地域住民への補償を求めた。IOIはこの決定に対し不服を申し立て、補償要求にもいまだ応じていない。
RSPOの規定では新たな事業を始める際は、「新規農林開発手順(NPP)」に従って環境影響評価を行うことを義務付けている。しかしIOIは環境影響評価書を提出することなく、土地開発を始めた。そして保護価値の高い森林についても、NPPを提出することなく開発に着手している。
そのため、2011年にはインドネシアでパーム油に関わる問題に取り組むNGOが合同でRSPOに対し、苦情の申し入れをした。しかし、調停は依然継続中で、いまだ解決していない。
IOIはさらに、許可されていない場所での違法伐採、炭素貯留が多く気候変動の脅威とされる泥炭地での開発、州政府への虚偽の報告や、農園開発のための意図的な火入れなど、数多くの深刻な森林破壊行為が指摘され、多くの国際環境NGOもこれを非難していた。
これにより、RSPOは2016年4月、IOIグループのプランテーション開発はRSPOの行動原則に違反しているとして、同社に付与していたRSPO認証を停止した。しかし、その処分もわずか4ヵ月後の8月には解除されており、IOIは認証を取得した「持続可能なパーム油」と銘打ったパーム油を再び販売している。
アブラヤシ農園の開発には労働・人権問題も
深刻な人身売買や児童労働
一方、アブラヤシ農園の開発に関わる問題は環境面だけではない。社会問題に取り組むNGO「ベリテ東南アジア」のダリル・デルガド氏はアブラヤシ農園における労働搾取や人権問題を指摘した。
マレーシア、とくにサバ州ではアブラヤシ農園にインドネシアやフィリピンなどから多くの外国人労働者が出稼ぎに来ている。彼らは斡旋業者に借金などをしてやって来るが、過酷な労働でも支給される賃金はわずかで、収入を得るどころか借金を返すことすらできないという。
斡旋業者にだまされ、住居も提供されず、食事も水も十分ではなく、さらにはパスポートや身分証明書などを取り上げられ、移動の自由が奪われるなど、国際労働機関(ILO)の定義する強制労働に当てはまる例も多い。
また、厳しいノルマを達成できず、一緒に連れてきた子供を働かせている例も多く、児童労働の問題も深刻だという。
熱帯林の保全と持続可能な森林利用のために
日本企業は何に配慮すればよいのか
パーム油を原料として使う日本企業は多くが、商社を介して現地と取引をしているかもしれないが、パーム油の生産企業が持続可能性に関する方針を持っているか、RSPOの会員であるかをまずは確認してほしい、とモリン氏は言う。そして、例えばWEBサイトなどで保有する株式や事業資産などを確認し、透明性があるか判断することも重要だという。
パーム油を使っていない企業でも、アブラヤシ農園の開発のために伐採された木材を購入したり、違法な操業を行っている企業の株式を保有するなど投融資を通じてアブラヤシ農園開発と関わりがある可能性がある。IOIがRSPOの認証停止処分を受けた後、ユニリーバやネスレ、花王などIOIから供給を受けていた大手日用品・食品メーカーが一斉にIOIからのパーム油の調達を停止する措置に踏み切った。これによる損失は1日当たり50万ドルに上るとIOIは発表している。しかし、このような損失はパーム油を調達する日本企業にも十分起こり得るとモリン氏は言う。
では、持続可能な森林利用とパーム油の調達のために、企業はどうすれば良いのか? モリン氏は、①自身が良いバイヤーになること、つまり企業自身が持続可能性に関する方針を採択し、実施計画を作って実施すること②自社の資産や操業についてよく知ること③サプライヤーについてよく知ることが重要だという。
さらに、モリン氏は調達側の企業はNGOの支援を積極的に受けてほしいと強調した。先行してプランテーション開発の問題にうまく対応している多くの企業も、労働問題や環境問題など、さまざまな分野で活動するNGOの力を借りているという。
森林とプランテーションの問題は単にパーム油生産のためのアブラヤシ農園開発をしなければよいという話ではなく、もっと複雑だ。鉱物採取が行われたり、他の目的で開発が行われたりすることもある。今後何十年、何百年と森林を守っていくためにはグローバルなアプローチも必要になる。モリン氏は総合的なステークホルダーアプローチを紹介してくれた(図)。
国際的なパーム油の需要に応えなければならない。また、長期的な政府の計画に森林問題を統合するなどのアプローチも求められる。さらに、人々が生計を立てられるようコミュニティのニーズを満たすことも必要だ。さまざまなステークホルダーが協力してそれぞれの必要性を満たしながら、持続可能なアブラヤシ農園の開発を目指さなければ、世界有数の生物多様性を誇る熱帯林を次世代に残すことはできないだろう。