特集/再生可能エネルギーの普及における固体バイオマスの持続可能性とは?シンポジウム 「 固体バイオマスの持続可能性確保へ向けて~英国の事例と日本の課題~」より
日本の再生可能エネルギー導入拡大とバイオマス発電

2016年10月15日グローバルネット2016年10月号

NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)、当フォーラム、国際環境NGO FoE Japanの主催により、シンポジウム「固体バイオマスの持続可能性確保へ向けて~英国の事例と日本の課題~」が9月12日、東京で開かれました。 固体バイオマスの利用をめぐり、国の再生可能エネルギー導入拡大の現状や、木質バイオマスに関わる環境基準および木質バイオマス燃料の輸入状況などに関する講演内容を紹介します。 また、固体バイオマスの持続可能性基準をすでに導入・運用している英国についても、その基準と運用状況の概要を講演内容をもとにまとめました。

日本の再生可能エネルギー導入拡大とバイオマス発電

経済産業省 資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部
新エネルギー課 課長補佐
吉野 欣臣さん(よしの よしおみ)

2012年7月、固定価格買取制度(FIT)がスタートした。その後制度開始から3年で再生可能エネルギー(再エネ)の導入量は制度導入以前より2倍以上増加し、再エネ拡大の原動力になったが、電源別では太陽光に大きく偏っている(図1)。また、FIT運用のために電気利用者すべてに課される再生可能エネルギー発電促進賦課金は、制度の開始以来10倍以上に膨れ上がっており、国民負担の増大につながっている。

そのような現状において、再エネの本格的導入のためには、①電源間でのバランスある導入と国民負担の抑制②電力系統制約への対応③地域社会との共生の三つの観点が重要であり、乗り越えるべき課題となっている。

図1 各電源の導入状況

再エネ拡大の原動力となったFIT法  今年5月に改正

FIT法は今年5月28日、「再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立」を目的として、改正された(改正FIT法)。FIT認定量の約9割を事業用太陽光が占めているという状況の是正が改正の出発点であった。

見直しのポイントとしてはまず、太陽光を中心に認定取得しても設備価格が下がるまで稼働しないような未稼働案件の発生を是正するため、系統への接続契約締結を要件とするなど、発電事業の実施可能性を確認した上で認定する新たな認定制度を創設した。また、バイオマスについては長期間にわたり安定的に発電を行うためには、燃料となるバイオマスを安定的に調達できる体制を整える必要があることから「燃料を安定的に調達することが見込まれること」という新たな認定要件を設けた。

さらに、再エネのコスト効率的な導入を促進すべく、中長期的な買取価格の目標を設定して予見可能性を高めるとともに、大規模な事業用太陽光を対象に入札制度を導入し、さらに、数年先の認定案件の買取価格まであらかじめ提示することを可能とするなどの買取価格決定方式の見直しを行った。

バイオマス発電の現状と課題

再エネ電源を利用した発電の中でも、林地残材や廃材を用いる「木質バイオマス発電」や、家畜糞尿や下水泥を用いる「バイオガス発電」などのバイオマス発電は、地域社会と密接に関わり、エネルギー政策面だけでなく、地方創生の観点からも期待が大きい。他方、発電コストの7割を燃料費が占めるため、地域のサプライチェーンを確立させて燃料供給を確保した上で、いかに長期安定的に調達し、コスト面での課題を克服していくかが最大の課題である。

また、導入量の拡大に向けては、①効率的に量を集める燃料供給インフラの構築②国内バイオマスを含めて木質バイオマスの地域での需給バランスの確保③海外バイオマス燃料利用の拡大などが課題として挙げられるが、林業施策との連携が重要であることは言うまでもない。

FIT制度開始以降のバイオマス発電は、2016年4月末時点で、新規導入が159件(約53万kW)、新規認定は420件(約371万kW)であった。新規容量(導入・認定)では、未利用木質・一般木質を中心とした木質バイオマス発電が多く、新規認定量としてはバイオマス発電の9割を占める。

木質バイオマス発電はFIT制度開始後すでに約342万kWが新規認定を受け、そのうち約35万kWがすでに運転を開始している。新規認定案件のうち、運転を開始した設備の燃料使用量の実績によると、未利用木材が半数近くを占める一方で、PKSなどの輸入一般木材などの使用量が約3割を占めている(図2)。これは、大規模なバイオマス発電所の建設計画が増加している中、国内の燃料だけでは十分な量を確保できないことから、当面はPKSなどの輸入材を活用することとしている事業者も多いと考えられる。

図2 FIT開始後に運転開始した設備の年間使用燃料量の内訳

また、都道府県が設定している森林由来燃料用材の計画値とFIT認定計画における需要量を推計すると、計画策定地域合計で供給量298万tに対し、未利用材需要は280万tである。しかし、半数程度の都道府県で供給量が需要量を下回っており、地域別に不足が発生する可能性がある。

これはFIT制度開始前に計画が策定されたものであり、都道府県毎に計画策定状況や推計方法が異なっていることに留意をしなければならないが、今後は需給管理に必要な都道府県などへの情報提供やバイオマス需要も見込んだ増産計画を更新するなど、需給調整メカニズムのさらなる構築が求められる。

需要の急増が見込まれる輸入バイオマス

一方、国内産バイオマスの供給量に対する不安から、大規模発電所を中心に輸入バイオマスの使用を検討する事業者がある中で、輸入バイオマスの需要は2015年秋以降急増していく見込みである(図3)。輸入バイオマスについては、エネルギーセキュリティーおよび地域活性化などへの貢献に対する懸念や、為替変動など外部環境の影響を受けるリスクも考慮する必要がある一方、国内産バイオマスの利用を増やしていくための初期段階の需要の受け皿としての役割を期待する見方もあり、いかに両者のバランスを取るか、検討が求められる。

図3 輸入バイオマスの需要見込み

なお、PKS以外の農産物由来の輸入バイオマスの活用の検討が進んでいる状況を踏まえ、実態の把握と、輸入バイオマスを含めた調達価格区分の在り方について、次回以降の調達価格等算定委員会において議論される予定である。

バイオマス発電の今後の課題

持続的なバイオマス発電の推進に当たっては、①長期間にわたる安定的な燃料供給の確保②木質バイオマスに係る発電コストの7割を占める燃料費の低減③発電所間の燃料の競合や発電目的以外のマテリアル利用への悪影響防止などの課題に取り組んでいく必要がある。

今後は①改正FIT法の新たな認定制度の下での燃料の需給バランス調整スキームの構築(都道府県などとの燃料情報の共有や需給管理への活用など)②FITだけに頼らない地域の実情に合わせた適切なエネルギー利用を促す取り組みの構築(燃料供給ネットワークの構築、熱利用の促進など)③バイオマス発電を長期安定的な自立電源とするための総合的な環境整備(研究開発、規制改革、ノウハウ・知識の共有など)等を推進してまいりたい。

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