ホットレポート請願署名を通じて国会に私たちの声を~アフリカゾウを保全するために国内象牙市場の閉鎖を

2025年03月14日グローバルネット2025年3月号

認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金(JTFE)事務局長
坂元 雅行(さかもと まさゆき)

アフリカのゾウが象牙目的の密猟のために減少

国際的な生物多様性保全の象徴であるアフリカのゾウ2種は、象牙を目的とする密猟の脅威にさらされています。その結果、アフリカサバンナゾウは過去50年間で60%、マルミミゾウは過去31年間で86%減少しました。世界自然保護連合(IUCN)のレッド・リストは、それぞれの絶滅のおそれを、「非常に高い」(EN)、「極度に高い」(CR)と評価しています。

写真① アフリカサバンナゾウの家族©JTFE

ゾウより象牙~日本政府による国内象牙産業の保護

1970年代後半から1980年代にかけての象牙密猟の激化は、1979年時点でアフリカ大陸に119万頭生息したゾウをわずか10年間で60万頭に半減させました。この時期(1979~1988年)に日本が輸入した象牙は、合計2,727.7トンにも上ります。その量をゾウの頭数に換算するとおよそ12万頭分。日本がアフリカゾウ激減に寄与していたことは明白でした。その結果、1989年に開催されたワシントン条約第7回締約国会議(COP)で、象牙の国際商業取引が禁止されるに至ります。

この結果を受け、日本は、加工原材料を新たに入手できなくなった象牙業界のため、近い将来、禁止を覆して象牙の国際取引を再開すべく、各省庁一枚岩となった取り組みを開始します。

世界は国内象牙市場閉鎖を推進~抵抗する日本政府

国際取引禁止によっていったんは息をひそめた象牙密猟でしたが、2000年代半ばに再び激化。国際社会は2013年以降、世界的な密猟・違法取引撲滅に向けた行動を本格化させます。2015年には中国と米国の首脳が、それぞれの国内象牙市場を閉鎖することを合意しました。さらに、2016年に開催されたCOP17では、「密猟または違法取引に寄与する」合法な象牙の国内市場が存在するすべての国に対し、商業取引が行われる国内市場を閉鎖するよう求める勧告が全会一致で採択されました。これを受け、英国、欧州連合(EU)、香港、シンガポール等の主要な象牙消費国・地域が、次々に市場閉鎖の措置を取りました。

一方の日本は、市場閉鎖勧告の採択直後から「厳格に管理されているわが国の国内象牙市場の閉鎖を求める内容ではない」と主張、その理由について「ワシントン条約ゾウ取引情報システムの最新の報告においても、わが国の市場は密猟や違法取引に関与していないと評価されています」(2017年の国会審議)などと説明してきました。

このような日本の姿勢に対し、国際的批判が高まりました。COP等の条約会議では、アフリカ諸国が日本を名指しして市場維持の姿勢を批判し、米国下院議員団、ニューヨーク市長、ヒラリー・クリントン元米国務長官も、日本の国内象牙市場閉鎖を要請しました。

象牙在庫が海外へ違法に流出し、国際的な需要を刺激

大量の在庫に支えられ、あらゆる象牙製品をオープンに販売し続ける日本で起きたのが、海外への違法な象牙輸出でした。このような事態が続くと、違法象牙に対する国際的な需要をあおることとなり、ひいてはゾウの密猟リスクを高めることになります。EUは、まさにこのようなリスクを重要視して、域内の象牙市場閉鎖に踏み切ったことを明らかにしています。

日本市場の違法な国際象牙取引への寄与が証明される

象牙の違法輸出について、政府は「海外持ち出しは違法」と周知徹底を図っているとするものの、日本から違法に輸出された象牙が海外で多数押収されている事実については、情報の公開を一切拒んできました。

ところが、2025年2月に開催されたワシントン条約常設委員会の直前、条約事務局が、以前日本政府が引用していた「ワシントン条約ゾウ取引情報システム」の国ごとの集計データを公開するに至ります。そこには、世界中で違法に取引された象牙の押収について、各国が関与した件数および総重量が示されています。これによれば、2020年にコロナ禍が深刻化する前の10年間(2010~2019年)に日本が関与した象牙押収は、合計257件、押収象牙の総重量は3.3トンに達します。これで、日本の国内象牙市場が違法な象牙の国際取引に「寄与している」ことが公式データによって証明されることとなりました。

社会・経済的な存在意義を喪失した日本の象牙市場

日本政府が象牙市場を堅持する姿勢を崩さないのをよそに、象牙の国民の社会生活における必要性、国民経済における重要性は低下する一方です。主力製品であるハンコすら、多様な素材の登場、デジタル社会化による押印機会の減少による影響を受けています。象牙を取り扱う業者の数も近年大きく減少しつつあります。東京都の調査によれば、象牙売上が事業全体に占める割合が10%未満の登録象牙業者は全体の9割。象牙による年間売上10万円未満の業者もほぼ8割に達し、象牙の取引機会が大きく減少していることは明らかです。国内象牙市場の維持は、日本社会にとって何の益ももたらしません。それは、国際批判にさらされながら、違法輸出される象牙の手軽な入手源をいたずらに温存する愚かな所業というほかないでしょう。

写真② 日本で高値で取引される象牙印材©JTFE

種の保存法の2026年改正~国内象牙市場閉鎖の好機

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下「種の保存法」という)は、現在、その施行状況の検討が進められています。2026年通常国会に政府が提出すると目される種の保存法改正法案では、所要の規定の整備がなされ、国内象牙市場閉鎖が実現されなければなりません。

請願署名を通じて国会に私たちの声を

そこでJTFEを含むNGOで、国会に請願書を提出することにしました。署名された請願書が国会で採択されれば、国会として私たちの要望に対応することになり、採択された請願が議院から内閣総理大臣へ送られれば、政府としてもこれに対応することになります。求めているのは、第一に、2025年11月開催のCOP20で国内象牙市場閉鎖の政治宣言を行うこと。第二に、2026年通常国会に、国内象牙市場を閉鎖するための措置を含む種の保存法改正法案を提出することです。なお、請願書では、市場閉鎖のための象牙の売買禁止(所持は禁止しない)にあたっては、今なお社会・経済的に取引を認める必要性・合理性が高いとみなされる象牙加工品の一部品目を例外としています。是非多くの方のご協力をお願いいたします(請願署名の締切は2025年5月21日必着)。

*請願署名用紙、関係資料のダウンロードはこちら

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