フォーラム随想高齢者の生活術

2025年01月17日グローバルネット2025年1月号

一般財団法人 地球・人間環境フォーラム 理事長
炭谷 茂(すみたに しげる)

 毎週水曜日の日本経済新聞夕刊に掲載される、エッセイスト岸本葉子さんの随筆『人生後半はじめまして』を楽しみに読んでいる。
 岸本さんは、私が旧厚生省社会援護局長在職時の25年前に、ある検討会の委員に加わっていただいた。現在日本心身障害協会理事長を務める河幹夫さんの推薦だった。岸本さんは、一般人の日常生活の経験に基づく肩に力の入らない発言で、大変好感が持てた。
 新聞の連載も同じような感覚である。高齢期に入ったご本人の日常的な出来事をありのままに書かれている。飲食店での注文、電車の中の出来事、自宅の鍵のトラブルなど誰でも出会う問題である。
 私は、いつもスマホやコンビニの無人レジなどデジタル関係で戸惑っている。今のストレスの半分は、デジタルに起因している。若い人が、何の苦労もなく、のろのろやっている私を尻目にスマホや無人レジを扱っているのを見ると、一層落ち込んでしまう。
 岸本さんのエッセイでもデジタル関係のトラブルがしばしば登場する。「同じように誰でも悩んでいるのだ」と救われる思いだ。

 高齢期に入った私は、デジタルだけでなくいろいろなことでトラブルを経験する。以前はトラブルとは感じず、簡単に処理できたことが今は、頭を痛める。
 大きな原因は、私の体力、精神力、知力が衰えたためだ。1日あればできた仕事が1週間ないと心配になる。
 一方、最近のデジタル化の進展をはじめ社会の変化が、昔に比べれば各段に激しい。この変化に応じていくことは大変だ。
 このような状態だからトラブルに直面することが多くなった。高齢者となった妻も同様で、探し物をしない日はない。私は、探し物に付き合わされる。
 このようなトラブルを減らすために高齢者ならではの生活術を工夫するようになった。

 シンプルなことだが、第一は、時間を十分に取って対処するようにしている。
 やらなければならない用務は、早めに取りかかる、昔は、原稿の依頼を受けると、締切日が直前になってから着手した。「こんな原稿は、簡単だ」と大物ぶった気持ちもあった。また締切日が近づき追い込まれないと、やる気が起こらなかった。
 今は、そんな余裕はないが、早めにやり遂げてしまうと、すっきりする。ちなみにこの原稿も締め切りの一ヵ月前に書き終えた。なぜ昔からそのようにしなかったのか、後悔している。
 生活術の第二は、仕事を細分化することである。家の片づけは、大仕事だが、例えば一つの部屋の整理も4分割して時間をかけてやる計画を立てる。すると気持ちが楽になる。実際は、作業が進み一気に部屋全部を終えることができることがある。しかし、分割方式を原則にすれば、ストレスはかからない。
 第三は、メモを残すようにしている。昔は、記憶力には自信があったのか、見栄なのか、メモを取ることは少なかった。しかし、記憶力が衰え、日常生活の雑事が大変多くなった。税金、区役所からの通知、各種の会合の連絡など毎日処理を要することが山積だ。この処理状況は、ノートにメモをしておくようにしている。
 とくに厄介なのは、暗証番号やパスワードである。最近この類がいっぱいである。以前は適当なところに書いておいたら、どこに書いたか忘れてしまった。手帳の片隅に書かれた数字を見ても、「はて何の数字だったかしら」と考え込んだ。
 最近はノートにきちんと整理をしてメモを残すようにしている。ノートを見ると安心する。さらに念のためもう1冊のノートを用意して2部作成している。これは高齢になったので、心配症になったためだろうか。
 このほかいくつか自分流の生活術を立てているが、次の機会に。

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