マダガスカル・バニラで挑戦!~アグロフォレストリーでつなぐ日本とアフリカ第6 回 バニラビジネスのコツ~大切にしている対等な関係
2024年12月16日グローバルネット2024年12月号
合同会社Co・En Corporation 代表
武末 克久(たけすえ かつひさ)
「私は、あなたたちに何か物を提供したりお金を寄付したりすることはしません。私は、あなたたちの取り組みをとても素晴らしいと思う。協同組合を組織して、アグロフォレストリーを広めたり、栽培指導したり売り先を確保するなどして組合員の農家を支援している。素晴らしい。私がやりたいのは、バニラビーンズの取引を通してあなたたちの取り組みを応援することです。対等な立場でビジネスをやりたい。僕は日本でバニラの売り先を見つけるから、あなたたちにはとにかくいいバニラを作ってほしい。」
バニラのサプライヤーである協同組合の理事会で初めて話をしたときに、一枚のプレゼン資料を見せながら彼らに伝えた言葉です。「お前は私たちに何をくれるのか?」という質問にカチンときて、少し語気を強くして話をしました。
マダガスカルで活動する大使館やJICAの職員と話をすると、いわゆる支援慣れの話がよく出ます。支援されることに慣れてしまって自主性が乏しい。支援がなくなると取り組みが継続できない。そんな案件がたくさんあるそうです。「ああ、このことか」と思いました。協同組合への期待が大きかっただけに、この組織もそうなのかなと残念でした。でも、結論からいうと、やっぱり期待は外れていなくて、今では対等で良い関係性を持てていると思います。今回は、協同組合との関係性構築の道のりをたどりたいと思います。
●はじまり
僕が最初にこの協同組合を訪れたのは2017年5月末のことです。最初は農園を見学するために行きました。そのときに彼らのアグロフォレストリーの農園や協同組合の組織に大きな魅力と可能性を感じました。彼らと事業をやりたいと思い至り6月に再度訪問しました。そのときの一幕が冒頭のやりとりになります。
最初は、「訳のわからん変なやつが来たな」と思われたかもしれません。何せお金を持っているわけではなく、何か支援するわけでもなく、「バニラと一緒にあなたたちの魅力を日本に伝えたい。そうすることであなたたちやマダガスカルのファンを日本につくって、繰り返しバニラを買ってくれる人や、マダガスカルに来る人を増やしたいと思っている。あなたたちのバニラでマダガスカルと日本をつなごう!」というような、今思えば夢物語を熱く話したわけですから。「そんな話はいいから、バニラを買ってよ」と思ったかもしれません。それでも少なくとも事務局長のセルジは可能性を感じて僕に一目置いてくれていたと思います。何かと気遣ってくれていました。
●商社を連れて行くも成約できず
この2回の訪問の後、同年11月には再度マダガスカルに渡りました。このときは日本から商社の担当者を連れて協同組合を訪問しました。しかしながら、現地までの交通インフラが整っていないこと、バニラを購入するにあたって前払いが必要であることが主な理由で成約には至りませんでした。
協同組合のある街は、首都のアンタナナリブから陸路だと車で1泊2日、飛行機を使っても同様で1日で行くのが難しい場所にあります。それだけであれば何とかなったかもしれませんが、前払いの問題がどうしても解決できませんでした。バニラビーンズの加工が終わって輸出入できるのは早くて12月です。ところが注文を入れるのは、グリーンバニラを収穫する前の6月とか7月。その時点で売買契約の締結と取引価格の50%を支払うことが求められました。売り手と買い手双方の言い分はよくわかります。売り手である協同組合としては、組合員からグリーンバニラを購入するための資金が欲しいし、途中でキャンセルされると大きな損失につながります。買い手である商社からすると、まだ見てもいない製品に対して安くはないお金を支払うことはできない。リスク管理の観点からは当然です。お互いに強い信頼関係を築けていない段階では乗り越えるのが非常に難しい問題でした。次の年に、また違う商社を連れて訪問しましたが、やはり成約には至りませんでした。

協同組合のディレクターのセルジ(中央)と会計担当のトゥキー(左)。右は筆者
●いよいよバニラの輸入開始
当時、バニラビーンズの価格は高騰し、銀よりも高い香辛料として騒がれていました。自分自身でバニラを購入して輸入・販売するには相当の資金が必要になります。そのため商社にバニラのサプライヤーを紹介して手数料をもらうモデルを考えていました。しかし、上記の通りこれもなかなか難しいことがわかり、2019年にクラウドファンディングで購入資金を募集しました。
そして同年7月、支援いただいたお金で協同組合に前払金を支払い、初めて注文を入れました。このときに注文したのは25kg。段ボール一箱分です。これでようやくスタート地点に立ったという感じでした。協同組合との関係性もこれを機に随分と前進したと感じます。「お、こいつ本当に買ったよ!」と思われたのではないでしょうか。現金な話ですが、いろいろな場面で随分と協力的になりました。ようやく彼らにちゃんと認められたという実感を持ちました。
2020年1月、注文したバニラビーンズの出来栄えを確認するために再訪しました。そのときに、保管用の木箱から出された黒くつや光りするバニラビーンズを見て感動したのを覚えています。
それ以降2022年前半まで、コロナ感染拡大の影響を受けて渡航できない状況が続きました。そんな環境下でも、メールなどのやりとりを通して輸出入は続き、日本に立派なバニラビーンズが届きました。もう自分が行かなくても大丈夫だという自信がつきました。とはいえ2022年後半からは訪問を再開しています。やはり、関係性を深める上で顔を合わせること自体に大きな意味があると思いますし、現地の状況を把握するためには実際にその場に足を運ぶ必要があると感じるからです。
●振り返ってみると
マダガスカルからバニラビーンズを輸入する上でもっとも重要なことは、信頼できるサプライヤーを見つけることだと思います。最初はうまくいっていたのに結局だまされてお金を持って逃げられたとか、商品が届かなかったという失敗談をよく聞きます。たまたま見学した協同組合が素晴らしい組織だったことは僕にとって大きな幸運でした。知識もコネクションも乏しい中で偶然彼らと巡り合えたことに強い縁を感じざるを得ません。マダガスカルにいると、いい生産者を知っているからバニラを買わないか? という誘いをよく受けます。ほとんどの場合断っています。新しくサプライヤーを選定するときには、複数の知人にその組織のことを確認し、全員が知っていてしかも評価がいい組織でないとアプローチしないようにしています。オーガニックなりフェアトレードなりの認証を取得しているかどうかも気にしています。認証自体に興味があるというよりも、認証を持っている生産者は相応の事務管理能力があり、外の人に対して取り組みを開示することに慣れていて、ゆえに透明性が高いからです。
最初の選定に加えてそれ以上に大切なことは関係性を構築し深めていくことでしょう。そのためには、当たり前のことですが、現地に足を運び、製品を買い続けることが必要です。時には七輪でプリンを作り振る舞ったりもして楽しい時間を過ごすことも大切です。その当時は目の前にあるやりたいこと、やらなければならないことをとにかくやっていただけなのですが、今から振り返るとそれらが積み重なって現在につながっていることがよくわかります。