NSCニュース No. 152 2024年11月定例勉強会報告 日本の「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」と海外の動向
2024年11月20日グローバルネット2024年11月号
NSC 勉強会担当幹事
株式会社Sinc 統合思考研究所所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)
生物多様性の保全と持続可能な利用の具体的方策が明らかになってきた。その現状や方向性について、8月30日、環境省と民間2団体に解説いただいた(オンライン開催)。
国家戦略を実現するネイチャーポジティブ経済移行戦略
環境省生物多様性主流化室 大澤隆文氏
「ネイチャーポジティブ(自然再興)」とは、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること。
⑴ 企業活動に係る最近の動き
2022年:COP15で2030年目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」の採択→2030年までに海陸生態系の30%以上を保全する
2023年:「TNFD最終版」の公表、日本「生物多様性国家戦略」の策定
2024年:日本「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」の策定、「企業の自主的取組を認定する法律」の成立
⑵ ネイチャーポジティブ経済へ移行
ネイチャーポジティブ経済とは、企業が「ネイチャーポジティブ経営」に移行し、バリューチェーンの自然負荷の最小化と製品・サービスを通じた自然への貢献の最大化を図り、企業を消費者や市場関係者が評価する社会となり、自然への配慮が組み込まれて、「資金の流れ」が変革された経済。逆に言えば、「資金の流れ」をネイチャーネガティブからネイチャーポジティブへ転換すること。
⑶ ネイチャーポジティブ経営へ移行
経済活動の自然資本への依存とその損失は、社会経済の持続可能性上のリスクである。これが基本認識。
社会経済を持続可能とするために、企業は「ネイチャーポジティブ経営」への移行が不可欠である。それは、自然資本の保全をマテリアリティと位置付ける経営=自然資本への依存・影響の低減を本業に組み込む経営。
そのためには、企業は自然関連のリスク(財務コスト)とビジネス機会の認識が必要である。
⑷ ネイチャーポジティブ経営で押さえるべき5要素は以下のとおり。
①まずは足元の負荷の回避・低減
②全体を見て一歩ずつの取組
③損失のスピードダウンにも意味
④消費者ニーズの創出・充足
⑤地域環境価値の向上にも貢献
ネイチャーポジティブのための企業との連携
日本自然保護協会 三好紀子氏
同協会は全国で70年以上活動し、約 300社の企業と連携してきた。
⑴ 失われていたかもしれない自然
1950年代の屋久島と上高地、1960年代の小笠原、1980年代の白神山地。いずれも同協会の成果であり、「当たり前にある自然が、これからも当たり前にあるように」という思いがある。
⑵ 2016年に企業連携チーム発足
自然保護のスペシャリストが専門スタッフとして、企業との連携・協働をサポートする態勢を整えた。「最近、多くの企業がネイチャーポジティブを本気で考え始めた」と認識する。
⑶ 企業×自治体×NGOによる「ネイチャーポジティブ支援プログラム」
●市町村ごとの生物多様性保全活動の推進
●地域の生物多様性の現状評価と課題の特定
●保全活動の方向性と具体策を提案
●定期的な定量評価で、生物多様性と生態系サービスへの貢献度を見える化する証書を発行。証書はTNFDにも掲載可能。
ネイチャーポジティブの実現に向けた国際動向
WWFジャパン 籠島彰宏氏
WWFは、世界100ヵ国以上で活動する国際的な環境保全団体である。
⑴ 生物多様性を巡る国際動向
非政府系団体による主要なイニシアチブの流れと要点を概説した。
●WWF「エコロジカル・フットプリント」
●WEF「グローバルリスク報告書」
●IPBES「地球規模評価報告書」
●WWF「生きている地球レポート」
●自然関連財務情報開示 TNFD
●SBTN (SBT for Nature)
⑵ COPで何が起きているのか
KMGBFの2030年ターゲット(23個)のうち、Target 15(ビジネス)、Target 18(補助金などインセンティブ)、Target 19(資金フロー)を強調した。