特集/IPCCシンポジウム報告 IPCC第7次評価報告書に向けて~暑すぎる地球で暮らす私たちにできること~<基調講演3>気候適応政策の実施に向けたサポート:技術ガイドラインのアップデート

2024年11月20日グローバルネット2024年11月号

IPCC AR7 WGⅡ共同議長、アムステルダム自由大学教授
Bart van den Hurk さん

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では2023年7月に第7次評価サイクル(AR7)を率いる議長団選挙が行われ、AR7が開始されました。
 本特集では、9月12日にAR7の議長団を招き、第6次評価サイクル(AR6)報告書の国内執筆者も交え、東京都内の会場で対面方式・オンライン方式併用で開催されたIPCCシンポジウム『IPCC第7次評価報告書に向けて~暑すぎる地球で暮らす私たちにできること~』(主催:環境省、文部科学省、経済産業省、気象庁)における、基調講演とパネルディスカッションの概要を編集部でまとめ、報告します。なお、当日の発表資料はhttps://www.gef.or.jp/news/event/240912ipccsympo/をご覧ください。

 

IPCCの第60回パネル会議で「気候変動の影響と適応に関するテクニカルガイドライン」の更新が決定されました。1994年版のこの技術ガイドラインは、7つのステップで構成されています。およそ政策評価のサイクルに従っており、例えば、まず問題を定義し、適応策を検討すべき特定地域の気候の状況についてインベントリを作成します。ガイドラインでは方法論に重点が置かれており、シナリオやデータの選択など適切な評価手法の選択を明確に求めています。

1994年当時は、方法論について多くの議論がありました。気候モデルは発展の初期段階にあり、実際の使用は限られていました。そのため、モデルに価値があるのか、知りたいことがわかるのか、といった議論はまだ続いていました。

ガイドラインの第5ステップでは、気候変動の生物物理学的、社会経済的、生態学的影響について評価します。あまり包括的な分析ではありませんが、少なくともいくつかの分野における影響に注目し、さまざまな種類の観測やモデル分析を含む影響評価を行うための方法論にも言及していました。

ガイドラインは「自律的な調整」、現在では「社会的発展」と呼んでいるものにも言及しています。人口の増加、経済の発展、社会構造の変化といった状況に対しても、影響評価や適応の準備を組み込んでいくべきと考えています。

適応に関するガイドラインの更新の必要性

59ページのこのガイドラインで適応戦略に割かれているのは1ページにも及びません。当時適応に関する理論や体系的な考え方はごくわずかでしたが、更新が必要になっています。過去30年で私たちが得た気候に関する知見や、今日観測している極端現象、新しいデータだけでなく適応科学においても多くの展開があり、適応が実際にどのように機能するかについてケース調査の蓄積があるからです。

ガイドラインは基準となるスキームの設定だけでなく、地域間や国家間での経験の交換を可能にすることも目指しています。そのために、世界中のエビデンスや経験を活用したいと考えています。

1994年版では、2つのシナリオとそれを評価するわずかなモデルしかありませんでしたが、1994年以降、気候のシナリオやデータに関する多くの発展がありました。

また、残存リスク、許容できないリスク、避けられない損失や損害について、より多くの議論が行われ、多くの証拠・科学的な知見が得られています。これらは適応戦略の計画や設計において、ますます重要になっています。

さらに、現在多くの場所で漸進的適応が展開していますが、場合によっては変革的適応が必要です。AR6では、漸進的適応と変革的適応について多くの証拠が示されました。漸進的適応は、非常に具体的で局所的な適応政策です。例えば、洪水を防ぐためのインフラを建設するといった、目の前の問題に対処するものです。

その後数十年の間に、より変革的な考え方が導入されるようになりました。例えば、私の国オランダでは堤防を築くだけでなく、洪水が発生したときに被害を軽減したり、必要なときに避難できるような空間計画が重視されています。

実用的なガイドラインに向けて

適応の失敗、あるいは後から考えると選択された適応策よりも別の適応策の方が適切であったという事例もあり、モニタリングと評価が以前よりもはるかに重要になっています。モニタリングすべき要素を特定し、より継続的な政策評価サイクルの中にモニタリングを位置付けるため、精緻な体系的枠組みが開発されてきました。

改訂ガイドラインでは、適応の余地と選択肢、長期と短期の適応の違いなどを体系的に検討し、適応戦略の策定と実施を支援する必要があります。また、実現可能にする条件や機会が適応政策の道筋と一致しているかどうかをチェックする必要があります。そして、モニタリングと評価も戦略策定には欠かせない要素です。

また、既存のガイドラインの評価も求められます。今や1994年版ガイドラインだけではなく、国連環境計画、国連開発計画、世界気候基金などの組織が適応ガイドラインを策定しています。これらのガイドラインに対する何らかの評価も行われることになるでしょう。

このガイドラインをさらに実用的にするために、実務の専門家やコンサルタントによる政府機関の報告書などの情報提供をお願いします。特に発展途上国では、査読付き論文という形で発表できる人がそれほど多くないため、こうした情報が重要になります。

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