NSCニュース No. 151 2024年9月バリューチェーンのマネジメント(VCM)

2024年09月18日グローバルネット2024年9月号

NSC共同代表幹事
サステナビリティ日本フォーラム代表理事
後藤 敏彦(ごとう としひこ)

 本欄No.146(本誌昨年11月号)にてサステナビリティ情報開示について述べた。IFRS(International Financial Reporting Standards )に基づく日本基準案がパブコメにかけられ今年度中に確定、と報じられている。語弊を恐れずに言うと、とにかく義務化を少なくしようとする動きが強いようである。明確なのは、どう確定したとしても国際基準を上回るものではないということだ。

 ところで、欧州のCSRD (Corporate Sustainability Reporting Directive)/ESRS (European Sustainability Reporting Standards) はIFRSを包含しそれを上回っており、しかも域外適用その他の理由により多くの日本企業にも義務的・実質的適用が求められている状況にある。

 結果として、日本のグローバルB to B企業などは二重基準に対処せざるを得ず、経営に大きな負担がかかる。また、開示情報の保証も欧州系の保証機関に席巻されてしまい、情報も丸ごと持っていかれてしまいかねない。

 今は全ての企業が大変革を迫られている時代であると認識しているが、護送船団的環境ではしばらくは過ごせても、いずれ全て撃沈される運命にあろう。足の早い船(先進的な企業)も

一蓮托生で沈没しかねないと懸念する次第である。

 さて、国家が取る手法としては特に環境分野を中心に「罰則」「補助金」「情報開示」の3つがあるといわれる。情報開示手法は1990年前後から

「企業自体の変革活動を促す」ためのミニマムとしての義務化だけでなく、国際的組織等が策定するソフトローとして、また強制力を持たないNGO等の活動の有力な手法として活用されてきた。

 2015年のTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)設置以降の情報開示義務強化の流れは、任意公開ではサステナブルな社会・経済への変革に不十分であると認識され出したものと理解している。情報開示が目的ではなく、必要なのは「企業自体の変革活動」なのである。

 そこで、VCMであるCSRD/ESRSのVCの定義を以下に紹介する。

バリューチェーン(抜粋)
 企業のビジネスモデルと、その事業活動に関わる外部環境の全領域。バリューチェーンは、構想から納入、消費、そして寿命の終わりまでその製品・サービスの創出に企業が使用し依存する活動・資源・関係性を網羅している。該当する活動・資源・関係性は以下を含む:
ⅰ.人的資源等の、企業の事業活動におけるそれら;
ⅱ.原材料・サービス調達、製品・サービスの販売・流通等の、サプライ・マーケティング・流通経路を巡るそれら;
ⅲ.その企業が事業活動している財務的・地理的・地政学的・法規制環境。

バリューチェーンは、事業体の上下流のアクターを含む。(後略)

 すなわち、VCの中核はビジネスモデルである。ビジネスモデルの定義は以下のとおり。

ビジネスモデル
 インプットをその活動を通してアウトプットとアウトカム(結果)に変換する企業のシステム。その企業の戦略的目的に沿った形で、短中長期にわたる企業価値の創出を狙う。(中略)企業には一つ以上のビジネスモデルがあり得ることを認識している。

 VCMでまず問うのはビジネスモデルである。従来のビジネスモデルは今後とも持続可能か。その際、サステナビリティ課題への取り組みが環境・社会に大きな負の影響をもたらすものでは持続可能ではない。そこで次に問うのは、サステナビリティ課題とのcompatiblenessである。整合性・両立性というよりは、サステナビリティ課題を事業のリスク・機会としてビジネスモデルの中核に組み込むことである。

 VCMはこの二つの問いを遂行するプロセスであり、相互関連したフィードバック・ループである。特にサステナビリティ課題はビジネスのあらゆる部門に関係があり、本社の特定の数部門が関わっているだけでは抜け落ちも考えられる。若者、女性、複数世代、外部者等も巻き込んで、自社のマテリアルなサステナビリティ課題の鳥瞰 図の策定と棚卸しがVCMプロセスの第一歩である。

タグ: