フロント/話題と人スザンヌ・シマードさん/ブリティッシュコロンビア大学 森林生態学教授

2024年07月16日グローバルネット2024年7月号

『マザーツリー』著者が来日
~ カナダの森林の危機と日本の「再エネ」のつながりを伝える~

スザンヌ・シマードさん
(ブリティッシュコロンビア大学 森林生態学教授)

種類の異なる木々が地下に広がる菌のネットワークで栄養や情報をやり取りする。森の中で最も古くて大きな木“マザーツリー”は、周りの木とつながり、若木の成長を助け、森の健全性を支えている―。「木々は独立しており、栄養を求めて競争している」というそれまでの常識を覆した発見により、2024年の米タイム誌「世界の100人」に選ばれたシマードさん。著書『マザーツリー:森に隠された「知性」をめぐる冒険』は日本でもベストセラーになっている。現地の森林の現状と日本とのつながりを伝えるために、地球・人間環境フォーラムなどの招へいで5月に来日した。

カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州では、ほぼ全ての木材が原生林の皆伐によって生産され、日本は同州から「再生可能エネルギー」の燃料として木質ペレットを輸入している。都内で開かれたセミナーでは、「原生林や老齢林の伐採はやめなければならない。カナダの現在の森林施業は持続可能でなく、ペレットも原生林由来であることを知ってほしい」と訴えた。原生林の皆伐により、菌のネットワークや野生生物の生息地、コケ・地衣類の多様性、森の炭素貯蔵が大きく損なわれ、森林火災のリスクも高まるという。

シマードさんの研究は、「森林の皆伐後、限られた樹種のみを植林し、除草剤をまく」という、カナダで推進されている森林管理の慣行に一石を投じた。『マザーツリー』では、何世代にもわたり伐採業を営む家庭に生まれ、幼少より森林に親しんで育った経験、木材会社でのアルバイトや森林局研究員として目にした慣行に疑問を持った若い頃の日々など、自らの半生もストーリーにした。「生態学とは、“home”(住む場所)を研究すること。私の研究が、森という私たちの“home”を思う気持ちから来ていることを伝えれば、共感してもらえるのでは」と考えたという。

セミナーには、林産業や森づくりに関わる市民、報道関係者、森林分野の研究者が多数参加し、関心の高さがうかがえた。「日本でも“マザーツリー”の考え方が反響を呼んでいることがうれしい。この本が注目されたことをきっかけに、多くの人に木質ペレットの問題にも気付いてもらえれば」と期待を語った。(克)

※セミナーの詳細は本号の特集をご覧ください。

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