フロント/話題と人レイチェル・ホルトさん(独立系生態学者、Veridian Ecological Consulting代表)
2024年06月17日グローバルネット2024年6月号
「炭素と森林の価値を考慮したエネルギー転換を」
~原生林由来のペレットの課題を伝えるために初来日~
「カーボンニュートラルな発電」であるとして、これまで日本で推進されてきたバイオマス発電。燃料の一つである木質ペレットは海外から大量に輸入されており、カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州が現在輸入元第2位となっている。同州で森林政策や保全に携わるホルトさんは5月、現地で生産されるペレットの持続可能性の課題を伝え、議論するために初めて来日した。
BC州産のペレットは製材残材含め、ほぼ全て原生林から来ている。同州の原生林には、膨大な炭素蓄積と北米唯一の貴重な生態的価値がある。都内で開かれた講演でホルトさんは、「2050年まで25年ほどしかない中、樹齢何百年という原生林を伐採したペレットの燃焼をカーボンニュートラルということはできない。この事について目を覚まし、世界のエネルギー転換の在り方を真剣に考えないといけません」と力を込めた。
イギリスのイングランド北部で育ったホルトさん。カナダの雪の魅力に引かれ、大学卒業後の1991年に同国に渡った。「古い温帯雨林の木のこずえに巣を作る海鳥がいる」と聞き、その生態系を見るために翌年BC州に移った。奇しくも1993年、バンクーバー島で起きていた最初の「森林戦争(War in the Woods、原生林伐採に対する大規模な抵抗運動)」を目にし、同州の森林の未来に関わりたいという思いが生まれた。
BC州で博士号を取得後、自分の会社を立ち上げた。以来、「グレート・ベア・レインフォレスト」(西部の沿岸温帯雨林)の生態系に基づいた保全計画、ブルーベリーリバー先住民の条約権侵害に関する裁判への助言・証言、優先的に伐採を保留すべき森林を州大臣に提言する「老齢林技術諮問委員会」など、森林管理の在り方に関するさまざまな仕事に携わってきた。
森林学者による独立委員会の提言などを受けて、近年BC州政府は木材生産より生態系の健全性を優先する森林政策に転換すべく動いている。今回の来日を踏まえて、「木質バイオマスの発電利用と原生林の伐採に対する日本の人びとの懸念を州政府に伝え、森林政策の整合性が取られ、生態系と炭素の視点で正しい選択ができるように促していきたい」と語った。(克)