ホットレポート未来の子どもたちに持続可能な環境を残すため、スポーツ界が立ち上がる 『HEROs PLEDGE』が始動             

2024年05月16日グローバルネット2024年5月号

日本財団 経営企画広報部 HEROsチーム チームリーダー
藤田 滋(ふじた しげる)

3月28日、日本財団は、スポーツ界全体で使い捨てプラスチックの削減に取り組むプロジェクト『HEROs PLEDGE』の始動を発表した。「スポーツ界から使い捨てプラごみゼロに」の実現に向けて、さまざまなアスリートが中心となり、スポーツ界が一体となって削減に取り組むプロジェクトだ。競泳のアトランタ五輪日本代表の井本直歩子氏が発起人となり、3月28日時点でラグビーの五郎丸歩氏や柔道の井上康生氏、競泳の岩崎恭子氏などのほか、スキージャンプの髙梨沙羅選手やノルディック複合の渡部暁斗選手といった現役選手など、総勢33名のアスリート、10組のスポーツ団体が参画している。

3 月28 日に開かれた『HEROs PLEDGE』発表会に登壇した参画アスリートたち

このままではスポーツどころではなくなってしまう

世界規模で進む気候変動や海洋汚染は、スポーツ界にも深刻な影響を与えている。19年のドーハ世界陸上では暑さにより女子マラソンで4割以上の選手が途中棄権、21年のオリンピック東京大会ではマラソン競技が札幌での開催になったものの途中棄権者が約3割も出た。21年に札幌で開催される予定だったクロスカントリーのレースは雪不足で中止となった。

要因の一つといわれているのが、私たちが生活の中で大量に使用している使い捨てプラスチックだ。海に流れ着くプラスチックごみの量は世界で年間800万トンといわれており、環境省の調査によれば海洋ごみの65.8%(個数ベース)がプラスチックだという。また、日本では約9割の廃プラスチックが回収されリサイクルされているといわれているが、約6割は「サーマルリサイクル」で、実際には焼却処理されており、製造時だけではなく回収して処理される際にもCO2を排出している。

スポーツでも多く排出される使い捨てプラスチック

使い捨てプラスチックごみはスポーツシーンでも大量に排出されている。例えば水分補給の際には、ペットボトル飲料が多く使われる。また、競技場の人工芝が摩耗して生じるプラスチック片、化学繊維でできたユニフォームを洗濯することで流出するマイクロファイバーなど、スポーツを行う過程でも大小さまざまなプラスチックごみが発生している。

また試合や大会など観客が入るスポーツの興行では、飲食物の提供に使用される容器やカップ、レジ袋、販売されるグッズの包装など、多くの使い捨てプラが使用され廃棄されている。23年12月に柔道の国際大会であるグランドスラム東京大会において、廃棄されたごみの調査を実施したところ、約4割(重量ベース)が使い捨てプラ製品で、そのうち容器が31%、包装が26%、ペットボトルが14%を占めていた。

世界のスポーツ界で進む取り組み

世界のスポーツ界では使い捨てプラの削減に向けてさまざまな取り組みが始まっている。2018年、国際オリンピック委員会は、使い捨てプラスチックの利用廃止に向け、7つのスポーツ団体(セーリング、陸上、トライアスロン、アイスホッケー、ラグビー、ゴルフ、サーフィン)とともに、スポーツイベントでの使い捨てプラ利用廃止に向けた取り組みをスタートした。また2024年に開催されるパリ五輪は、競技場へのペットボトルの持ち込みが原則禁止、マラソンの給水所では再利用可能なカップの使用などが計画されており、史上初の「使い捨てプラスチックのない大会」として注目されている。

『HEROs PLEDGE』

「PLEDGE(プレッジ)」は「宣言」という意味の英語で、プロジェクト参加を宣言したパートナーとともに、6Rの枠組み()に基づき使い捨てプラの削減に取り組む。日本財団は、パートナーのアスリート向け勉強会や視察会などの、アクションを検討するためのインプットの提供や、具体的なアクションを実現するためのコンサルティングや資金的な支援を行う。例えば井本氏は、理事を務める日本バドミントン協会が主催する24年8月のジャパン・オープンでウォーターサーバーを設置し使い捨てボトルの削減に取り組む予定だ。また、B.LEAGUE選手会の会長を務める田渡凌選手は、所属する福島ファイヤーボンズに働きかけ、不要になったクラブ公式グッズを回収し軍手にアップサイクルし、その軍手を使ってファンと共にごみ拾いを行う『CHANGE THE GOODs ACTION』を開始した。いずれも日本財団が資金支援している。

図 アクションのための6R の枠組み

この他、「Advocate」(啓発・提案)の取り組みとして、パートナーの団体とも連携した啓発キャンペーンを年2回行う計画だ。24年4月から5月にかけては、パートナーの9団体とともに、各団体のホームゲーム時などでファンと一緒にごみ拾いやエコステーションでの分別の啓発を行うイベントを同時期に開催する。ごみ拾いや分別は、使い捨てプラを直接に削減する取り組みではないが、一般生活者が気軽に参加でき、問題を知る(Advocate)とともに、自身の生活で使用している使い捨てプラを振り返り見直す(Rethink)ことにつながる。関心を持ったファンは、HEROs PLEDGEの特設サイトで自身も使い捨てプラごみ削減のアクションをプレッジしてプロジェクトに参加することができる。

アスリートとともにモデルケースとなる事例を作りながら、ファンに働きかけ啓発するキャンペーンを通じて、2027年度末に主要スポーツの興行において使い捨てプラごみの半減を目指す。

おわりに

経済学に、「負の外部性」という概念がある。取引の当事者間での取引価格には反映されず、製品の生産または消費の結果、第三者や社会全体にコストが発生することを指す。使いやすさや費用の低さで爆発的に普及したプラスチックだが、環境へ与える影響が内部化(取引価格への反映)されておらず、社会全体の厚生という観点から見た場合に、最適な資源分配の結果ではないかもしれない。「負の外部性」の内部化がすぐにはできないなら、私たち生活者自身がプラスチック製品の要不要を見極め、その使用量を調整する必要がある。そのためには、生活者自らがプラスチック製品の環境負荷を理解して選択する必要があるが、さまざまな情報があふれる中で、そうした情報はなかなか生活者には届かない。だからこそ、競技だけでなく観戦も含め愛好家が多いスポーツというコンテンツ、アスリートの声という媒体には、人々に情報を届け、そして動かすポテンシャルがある。サッカーなどの国際大会での試合終了後、日本人サポーターがごみ拾いをしている姿が他国で賞賛されている報道を見たことがある人も多いだろう。これからはプラスチックの使い捨て削減においても、このスポーツの力を活用する。それがHEROs PLEDGEだ。

タグ: