INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第82回 大気質持続改善行動計画

2024年02月20日グローバルネット2024年2月号

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

大気質持続改善行動計画制定の背景

 2023年11月30日、国務院(日本の内閣に相当)は大気質持続改善行動計画を制定し、12月11日にプレス発表した。この行動計画は2013年に初めて制定された大気汚染防止行動計画(計画期間2013~17年)および引き続き制定された青空保護勝利戦3年行動計画(計画期間2018~20年)の流れをくむものである。これまでこの連載の第18回(2013年2月号)等で何回も紹介してきているが、2013年初から中国全土で激甚な大気汚染が発生した。中国ではちょうどこの年から改定強化した新大気環境基準を適用したこと、全国主要都市の大気環境モニタリング体制を強化しモニタリングデータを即時公開したこと等と相まって、中国国内のみならず風下で汚染物質の越境移動の影響を受ける韓国や日本でも大きな問題として取り上げられた。日本では同年2月に、環境省が外出の注意喚起のための暫定的な指針を制定した。

 国民の健康不安に関わる重大な事態を重視した中国共産党中央委員会および国務院は、2013年6月に国務院常務会議で大気汚染防止十条措置を、9月には国務院がこの十条措置をさらに具体化した大気汚染防止行動計画を制定し全国に通知した。この計画では2017年を目標年次として、に示す主要目標等を設定した。また、この大気汚染防止行動計画の成果を評価した上で、間を置かず2020年を目標年次とする青空保護勝利戦3年行動計画を制定した。これら2つの行動計画を強力に推進した結果、中国全土の大気質は大幅に改善された。

 2021年、国民経済と社会発展第14次5ヵ年計画(2021~25年)で重要な主要指標の一つとして大気環境質に係る目標(2025年までに地級以上の市の大気質優良日数の割合を87.5%に到達させるなど)は設定されたものの、この目標を達成するための具体的な行動計画の制定は見送られていた。その理由については明らかではないが、2021年以降有利な気象条件が続いたほか、2020年から実施していたゼロコロナ政策(注:2023年1月に解除)の影響により経済活動が停滞し、その結果大気環境にはプラスの効果が働いていたこととも深く関係していたのではないかと推測される。

 ところが、2023年に入って状況が一変した。生態環境部の責任者の説明によれば、2023年に入ってから大気質はいろいろな要素の影響を受け、特に気象条件が極めて不利で砂塵嵐が明らかに増加し、大気質が悪化したとしている。そして、習近平総書記は青空保護勝利戦の勝利を重点中の重点としていることなどから、この度大気質持続改善行動計画を制定したと説明した。計画概要について以下に簡単に紹介する。

10条39項目の措置で構成

 過去の2つの行動計画の慣例を踏襲して大きく10条に分類し、その下に39の措置が書かれている。誌面の都合上、見出し等を紹介しておく。

一、全体要求
 (一)指導思想、(二)重点地域、(三)目標指標

二、産業構造の最適化、産業および製品のグリーングレードアップを促進する
 (四)高エネルギー消費、高排出、低レベルのプロジェクトの安易な着手を断固として抑制、(五)重点業種の立ち後れた生産能力の淘汰を加速、(六)伝統産業集積地域のグレードアップ改造を全面的に展開、(七)揮発性有機化合物(VOCs)を含む原材料補助材料および製品の構造の最適化、(八)グリーン環境保護産業の健康な発展を推進

三、エネルギー構造の最適化、エネルギーのクリーン低炭素高効率な発展を加速する
 (九)新エネルギーとクリーンエネルギーを大いに発展、(十)石炭の消費総量を厳格に合理的に抑制、(十一)石炭燃焼ボイラーの閉鎖停止整理を積極的に展開、(十二)工業窯炉のクリーンエネルギーへの代替を実施、(十三)北方地域のクリーン暖房を継続して推進

四、交通構造を最適化し、グリーン輸送体系を大いに発展させる
 (十四)貨物輸送構造を継続して最適化調整、(十五)自動車のクリーン化レベルアップを加速、(十六)オフロード移動発生源の総合対策を強化、(十七)製品油の質を全面保障

五、面源汚染対策を強化し、管理レベルを精緻化向上させる
 (十八)揚塵汚染総合対策を深化、(十九)鉱山の生態環境総合対策を推進、(二十)茎藁の総合利用と焼却禁止を強化

六、多くの汚染物質の排出削減を強化し、排出強度を着実に低下させる
 (二十一)VOCsの全プロセス、全段階における総合対策を強化、(二十二)重点業種の汚染高度処理を推進、(二十三)飲食業の油煙、悪臭異臭専門対策を展開、(二十四)大気のアンモニア汚染の予防と制御を着実に推進

七、メカニズムの構築を強化し、大気環境管理体系を完全なものとする
 (二十五)都市大気質の基準達成管理を実施、(二十六)地域大気汚染防止対策協力メカニズムを完全化、(二十七)重汚染天気対応メカニズムを完全化

八、キャパシティビルディングを強化し、厳格に法執行を監督する
 (二十八)大気環境モニタリング・監視能力を高める、(二十九)大気環境監督管理に係る法執行を強化、(三十)科学技術サポートに係る政策決定を強化

九、法律法規基準体系を完備し、環境経済政策を完全化する
 (三十一)法律法規の制定改定を推進、(三十二)環境基準と技術規範体系を完全化、(三十三)価格・税制による奨励や拘束メカニズムを完全化、(三十四)財政金融の先導的役割を積極的に発揮

十、各方面が責任を果たし、全国民行動を展開する
 (三十五)組織のリーダーシップを強化、(三十六)監督と考課を厳格化、(三十七)情報公開を推進、(三十八)広報による先導と国際協力を強化、(三十九)全国民行動を実施

 今後全国の地方政府が、各地方版の大気質持続改善行動計画を制定し実行していくことになるが、早速昨年12月30日、黒竜江省政府は黒竜江省大気質持続改善行動計画実施方案を制定した。また、広東省でも昨年末に広東省環境大気質持続改善行動計画パブコメ版を公開するなど、地方政府の動きが加速している。

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