フォーラム随想福島原発事故から何も学んでいない日本~気候変動の影響
2023年12月28日グローバルネット2023年12月号
千葉商科大学名誉教授、「八ヶ岳自給圏をつくる会」代表
鮎川 ゆりか(あゆかわ ゆりか)
今年の夏はかつてなく暑かった。それもそうだ。2023年は史上最高に暑かった年になるだろうとWMO(世界気象機関)やコペルニクス気候変動サービス(C3S)などが発表している。すでに気温上昇幅は、産業革命前に比べ1.5℃近く高くなっていると各種気象データが語っている。
気候変動が進むとどうなるか。大雨、暴風雨による大洪水、干ばつ、ハリケーンや台風の巨大化、森林火災、そして長期的には北極などの氷床が融け、海面上昇が起きる。IPCC第6次評価報告書で、最悪シナリオでは2100年に2m近く、2300年には15mを超える場合もあると示された。
2011年に起きた東日本大震災と福島原発事故の映像を、世界の科学者、気候変動関連NGOの人たちは「将来温暖化が進んだ時に起きるであろう事象のリアルな姿」と捉えた。
そこからさまざまな研究が進み、海面上昇に、巨大なハリケーンや台風が高潮時と重なった場合、海岸沿いの原発はどうなるか、気温上昇2℃の場合、4℃の場合などのシミュレーションが行われている。また原発そのものではなく、発電・送電・配電網などインフラや、外部電源がやられると、巨大な発電を行っている原発は危険な状況になる。
アメリカは特に国防総省が2010年頃から海面上昇の危険性に注目した研究を次々と発表し、世界中にある同国の膨大な軍事施設および軍関係者の住宅などについて、設計時点で将来の気候変動による悪影響を免れられるようにしなければならないとしている。法律もある。
温暖化の影響は既に、ヨーロッパなど河川水を冷却水として使っている原発で起きている。ヨーロッパの原発は河川水温の上昇で、夏場に運転停止または発電抑制を余儀なくされている。ここから原発の経済性を研究したアーメッド氏は、水温上昇など「水関係」によるエネルギー損失は、2046-2065年に0.8%-1.4%、2100年には1.4%-2.4%になると見込まれると発表し、業界に衝撃を与えた。
特に心配なのは、原発の発電に伴って生み出される放射性廃棄物である。福島原発事故の際、アメリカが最も心配したのは、4号機に取り出したばかりの使用済み核燃料が原子炉建屋の最上階のプールに収められていたことであった。使用済み核燃料は放射性崩壊により、熱を出し続け、水が減ってきたら、すぐにでもその熱で残りの水を蒸発させ、燃料が露出し、原子炉爆発以上の事故に発展する。幸いあの時は、偶然が重なり、4号機のプールの水は保たれたが、この危機は、当時の政権にも東京都を含む関東一円が放射能汚染で住めなくなるという最悪シナリオとして描かれていた。
使用済み核燃料を含む全放射性廃棄物の問題が、福島原発事故の最大の教訓であったはずだ。アメリカでは全ての使用済み核燃料をドライキャスクに移転しようとしているが、思うように進んでいないのが実態である。最終処分場も同様である。この問題が解決されない限り新たな原発の建設を禁止した州が9つある。
日本ではそのような議論もないまま、新規立地も含め、全ての原発を再稼働させ、運転期間も60年に延ばすことになってしまった。
福島原発事故を受けて設置された原子力規制委員会の新規制基準にも、異常気象などの自然現象に対しては、「過去の記録、現地調査の結果及び最新知見等を踏まえて、適切に予想される」ものとしているだけで、将来に起こり得る気候変動による極端気象などは想定に入れていない。そもそも日本には、IPCCのシナリオを踏まえたエネルギー基本計画や需給予測はない。福島原発事故から日本は何も学んでいないに等しいといえる。
〈参考〉原子力資料情報室『原発は気候危機に耐えられるか』(2023年10月31日)https://cnic.jp/50004
※ 今月号より、鮎川ゆりか氏が「フォーラム随想」の執筆者に加わりました。