IPCCシンポジウム報告 「IPCC第7次評価報告書へ向けて~未来のために今私たちが行動しよう~」AR6の振り返りとAR7に向けた展望〈発表2〉
2023年12月28日グローバルネット2023年12月号
東京大学未来ビジョン研究センター教授
国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員(IPCC AR6 WGⅠ 第1章LA)
江守 正多(えもり せいた) さん
本特集では、10月23日に東京都内の会場で対面方式・オンライン方式併用で開催されたIPCCシンポジウム『IPCC第7次評価報告書へ向けて~未来のために今私たちが行動しよう~』(主催:環境省)における、AR7 の副議長、第2作業部会(WGII)共同議長、インベントリタスクフォース(TFI) 共同議長の基調講演と、AR6報告書の国内執筆者によるAR6の振り返りとAR7に向けた取り組みや展望についての発表の概要を編集部でまとめ、報告します。
なお、発表資料は、https://www.gef.or.jp/news/event/231023ipccsympo/をご覧ください。
WGIの執筆者としての立場から、お話しさせていただきます。
IPCCというのは、1988年に設立後、AR1が1990年に出され、その後約6、7年ごとに、温暖化の原因について評価をしてきたのですが、AR3(2001年)ぐらいから「20世紀後半以降の温暖化の主な原因は人間活動である可能性が高い」と評価されるようになりました。そしてAR6で人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたのは「疑う余地がない」と、その可能性は100%になったのです。他にもAR6では、将来予測の不確かさの幅がそれ以前に比べて半分に狭まりました。
可能性が100%になったならこの先やることはないのではないか、と質問されることがありますが、その質問に対する私の答えは「もちろんあります」です。
特にやるべきことは何なのか考えると、次のAR7の公表時期が2030年頃だとすると、世界平均気温は産業革命前から1.5℃にかなり近いところまで上昇している状態なので、例えば1.5℃を超えて戻ってくるオーバーシュートに関する科学的な知見や、南極の氷床が不安定化するかどうか、あるいはその永久凍土からメタンが出てくるかどうか、そういったティッピングポイント(臨界点)に関する科学、そして地域ごとに極端現象がどの程度の頻度でどのようなものが発生する見通しか、というようなことが、より実践的な重要性を強く持つと思います。
AR6 WGI第1章のエグゼクティブサマリーに「気候変動情報の構築と科学的理解の伝達は、制作者、利用者、より広い範囲の聴衆の価値観に影響される」と書かれています。緊迫感、緊張感、緊急性が高まる中でAR7は科学的な発信をしなくてはいけないので、このことは特に重要になります。
WGIというのは基本的に科学的情報を出すという立場ですが、科学そのものにも客観性、開放性、証拠に基づく思考など、それ自体の価値があります。社会の中にさまざまな価値観を持つ人がいる中で、われわれは社会の価値とどう向き合い、どのような価値観でメッセージを構成するか考えるということが重要になってくると思っています。